シミの種類
「シミ」といっても様々な種類がありシミのタイプによって原因や治療が異なります。過去のシミの治療歴もシミを鑑別していく上で重要になります。代表的な「シミ」には以下のものがあります。
シミの種類
老人性色素斑(日光性黒子)
そばかす(雀卵斑)
肝斑
ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)
炎症後色素沈着
老人性色素斑(日光性黒子)
いわゆるシミになります。これまでに浴びてきた紫外線の蓄積により表皮細胞内でなんらかの遺伝子変異が生じメラニン生成を促す遺伝子発現が持続的に活性化され、メラニン生成を促すET1やSCFなどの発現が増強しメラニン生成が高まり表皮に沈着した状態と考えられています。
組織学的には表皮突起の延長といった過角化を認める場合や、慢性的な紫外線の影響やその他の外傷などにより、基底層の断裂を生じ、メラノサイトから生成されたメラニン色素が真皮浅層に滴落しマクロファージに貪食され、メラノーシスを生じている場合があります。真皮層へのメラノーシスでは、レーザーなどでの治療後に痂疲化せずに残り、消えるのに数か月の期間が必要となる場合や、期間を開けて複数回の治療が必要となる場合があります。
老人性色素斑の出来やすい場所は顔面(特に両頬)、手背などといわれ日光に当たりやすい部位になります。
治療は過剰なメラニン色素が沈着した異常な角化細胞にレーザーを照射して強いエネルギーを加え、異常な細胞のみを壊して除去をする治療になります。
当院ではピコレーザーを使用した「レーザーによるスポット照射」と「外用治療」を組み合わせたシミ治療を行っております。
治療
治療方法
IPL(フォトフェイシャルやルメッカなど)…当院では取り扱いがありません
レーザーによるスポット照射
ルビーフラクショナルや532nmのフラクショナル…当院では取り扱いがありません
外用治療(トレチノインとハイドロキノン)
IPL(フォトフェイシャルやルメッカなど)…当院では取り扱いがありません
ダウンタイムを極力抑えて、かさぶたの形成を避けつつ、色素沈着が発生するリスクも抑えたいという方向けの治療となります。回数が必要となるのと、一番良い反応を示すのは初回で2回目以降はシミへの反応は弱くなっていきます。また、薄いシミや深い位置にあるシミでは反応しないことも多々あります。シミを薄くして目立ちにくくするのをゴールとした治療となります。
レーザーによるスポット照射
当院では承認機であるエンライトンSRを使用したピコスポットでの治療を行います。レーザーのスポット照射ではIPLと異なり指向性が高いため、まっすぐと光線が進むため散乱せずにターゲットまで到達します。IPLでは様々な波長が含まれていますが、レーザーでは単色性といい、1波長のみとなります。強力にピンポイントでエネルギーを加える治療となるため、シミを除去する能力はIPLと比較し高く、IPLでは治療ができないADMの治療も可能ですがIPLよりも色素沈着のリスクは高く、かさぶたとなる(痂疲化する)ダウンタイムも発生します。
ルビーフラクショナルや532nmのフラクショナル…当院では取り扱いがありません
フラクショナル化させてレーザーを照射することで肌へのエネルギーによるダメージを抑えながら、回数を重ねて薄いシミを薄くしていく治療となります。
そばかす(雀卵斑)
そばかすは遺伝性の色素沈着で幼少期から目立ちはじめ、思春期に濃くなり、その後は次第に薄くなっていくといわれています。鼻背や両頬上に1~3mm程の茶褐色の色素斑が出現し、眼瞼周囲や唇などの顔全体にできることがあります。原因はMC1Rの遺伝子変異によるものといわれています。そばかすは治療後の再発が起こりやすいといわれており、治療後の紫外線対策が重要となります。
組織学的にはシミのような表皮突起の延長といった過角化は認めず、真皮層へのメラノーシスも認めません。
治療は老人性色素斑と同じですが、表皮突起の延長がないため治療への反応は良いですが、再発をしやすいです。
治療
治療方法
IPL(フォトフェイシャルやルメッカなど)…当院では取り扱いがありません
レーザーによるスポット照射
ルビーフラクショナルや532nmのフラクショナル…当院では取り扱いがありません
外用治療(トレチノインとハイドロキノン)
肝斑
30~40歳代の女性に多く見られ、頬骨部、口周囲など左右対称に出現する濃淡のある灰褐色斑です。はっきりとした発症の原因は不明ですが、紫外線が発症要因として重要な役割をしているといわれています。紫外線暴露以外に、妊娠、経口避妊薬、肌に合わない化粧品の使用、摩擦などは肝斑の悪化因子といわれています。肝斑部位では皮膚のバリア機能低下を合併しているといわれ、摩擦などのバリア機能を壊すことが肝斑悪化につながるといわれています。肝斑は閉経後に自然に消失することもあり、エストロゲンプロゲステロンによるエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を介した色素細胞の活性化が関係していると考えられています。
様々な刺激経路で角化細胞が刺激を受けるとプラスミンやプロスタグランジンを産生します。これらはメラノサイトを活性化させる因子の1つといわれており、慢性的な刺激などにより色素細胞が活性化されることで、メラニン生成が亢進し肝斑ができます。基底膜の破壊による真皮にメラノーシスや、真皮毛細血管の拡張、弾性線維変性などを合併することもあります。メラノサイトを活性化させる働きは表皮の角化細胞だけでなく、真皮線維芽細胞や毛細血管を含めた関与が考えられ、これらの細胞から分泌されるαMSH、ACTH、IL‐1、SCF、VEGFなどによりメラニン産生が亢進するといわれています。そのため、真皮のリモデリング治療が肝斑治療には有効といわれています。
肝斑のある部位には老人性色素斑やADMなどが合併していることもあり、そのような場合では鑑別や治療が難しくなります。肝斑を目立たなくしようとし、擦り込むような化粧や、化粧水の過度なタッピング、強く擦るように化粧をおとす、たるみケアのためのローラーのやりすぎなどは肝斑治療の逆効果となるため控えた方が良いです。
治療
治療方法
トラネキサム酸の内服(内服が難しい場合は外用や局所注射も選択肢となります)
外用治療(トレチノインとハイドロキノン)
レーザートーニング
ピコフラクショナル
肝斑用の設定でのニードルRF治療(シルファームやポテンツァ)…当院では取り扱いがありません
ジュベルック
トラネキサム酸の内服(内服が難しい場合は外用や局所注射も選択肢となります)
トラネキサム酸は抗プラスミン作用やプロスタグランジンの産生を抑える働き(抗炎症作用)により肝斑の治療効果があるといわれています。肝斑の予防のために長期間飲む薬ではありません。また、止血作用もあるため、稀ではありますが血栓症のリスクがあります。
経口避妊薬を内服されている方、妊娠中や妊活中の方、65歳以上の方、抗凝固薬内服中、心臓疾患のある方などは血栓症のリスクが高まるため内服は推奨されません(内服禁忌ではありません)。トラネキサム酸の内服量は500mg~/日、2ヵ月程度で内服効果が実感できるといわれています。トラネキサム酸で効果がない場合は、外用や真皮のリモデリング治療などを組み合わせた治療を行う必要があります。
レーザートーニング
レーザートーニングはQスイッチレーザーもしくはピコレーザーを使用し、低出力での中空照射を1~4週間毎に繰り返していく施術です。ピコレーザーを使用したものはピコトーニングともいわれます。レーザートーニングには色素細胞の活性を低下させ、表皮のターンオーバーを促進します。高出力かつ頻繁に繰り返しすぎると脱色素斑(白く色抜けする)ができることがあるため、肌診断機を定期的に使用して脱色素斑を早期に捉えるようにし、施術の間隔を空け脱色素斑をできにくくするといった注意をしながら回数を行う必要があります。
レーザートーニングのみでの治療では時間を要し、効果実感も乏しいことも多いため外用や内服を組み合わせて治療を進めていくことが多いです。
ピコフラクショナル
真皮のリモデリングも肝斑治療には重要になります。1,064nmの波長をフラクショナル化し照射をするレーザーは肝斑に有効であるという報告と、悪化の報告があり、治療にあたっては出力には十分注意を払いながら治療を行う必要があります。
炭酸ガスレーザーのように肌に穴をあけ深部にエネルギーを届ける(アブレイティブフラクショナルレーザー)治療ではなく肌の表面には穴をあけず深部にエネルギーを届ける(ノンアブレイティブフラクショナルレーザー)治療のため、ダウンタイムが少ないことが利点となります。
ピコレーザーをフラクショナル化し、照射をすると衝撃波により真皮の組織内に空洞(LIOB: Laser-Induced Optical Breakdown)ができます。LIOBによる刺激で創傷治癒過程が惹起され、コラーゲンやエラスチンを増生し肌の再構築が促されます。ニキビ跡の治療目的の場合では高出力での照射をし、肝斑治療では刺激による肝斑悪化を避けるため低出力での照射を行います。
肝斑用の設定でのニードルRF治療(シルファームやポテンツァ)…当院では取り扱いがありません
真皮のリモデリングのために剣山状の針を刺入し高周波による熱を加える治療法があります。肝斑治療専用のチップを使用し、熱を加える層も基底層周囲となるため肝斑治療に特化した施術となります。
ジュベルック
ジュベルックによる肝斑が改善したという報告があり、ジュベルックによる抗炎症作用や線維芽細胞活性化によるコラーゲン生成や真皮のリモデリングが関与している可能性があると考えられています。
ジュベルックは毛穴や小じわ、ニキビ跡の治療というイメージが強いですが、肝斑の改善効果も期待できます。
ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)
両頬や鼻を中心に1~3mmの灰褐色でやや青みを帯びた色素斑が多発します。日中韓の思春期以降の女性にできやすいといわれ、小さい老人性色素斑や雀卵斑と似ており鑑別が難しいことがあります。また、IPL治療後に残ったそばかすはADMによく似ているため、治療歴も鑑別のために重要となります。
原因は真皮上~中層にある真皮メラノサイトです。後天性真皮メラノサイトーシスでは先天的に同部位に真皮メラノサイトが存在しますが、活性化される原因についてははっきりとわかっていません。以前は太田母斑の一種と考えられていました。太田母斑は女性に多く、生後間もなく発症することが多く、思春期以降に発症することもあります。発症部位は三叉神経第1枝、第2枝が支配領域に出現し、大部分は片側のみの発症です。ADM治療時は肝斑の合併も多いため注意が必要と考えられています。YoshimuraらはADM患者62例中、6例肝斑の合併があったと報告しています。
治療
治療方法
レーザーによるスポット照射
トラネキサム酸の内服や外用治療(トレチノインとハイドロキノン)の併用
ルビーフラクショナル…当院では取り扱いがありません
レーザーを使用した治療を3~5回程度行い真皮メラノサイトおよび沈着したメラノソームを破壊し分解排出する治療を行います。真皮層のメラニンのためシミと異なりかさぶたとならないこともしばしばあります。照射後1~3か月程度かけて徐々に壊されたメラノソームは排出され、薄くなっていきいます。照射後の炎症後色素沈着の予防や治療もかねて、トレチノインとハイドロキノンやトラネキサム酸の内服などを併用することもあります。
当院ではルビーフラクショナルの扱いはありません。
炎症後色素沈着
虫刺され、ニキビの炎症、調理時に跳ねた油、ヘアアイロンやコテでの火傷などの強い刺激後の炎症によってできたサイトカインにより色素細胞が活性化しメラニンが皮膚に沈着した状態です。通常の色素沈着は半年程度で治りますが、真皮のメラノーシスを伴う場合などではそのまま残ることがあります。
治療は炎症後色素沈着ができてから、数か月は刺激を与えずハイドロキノンやアゼライン酸などの外用薬で様子を見ていき、トーニングの併用も行うことがあります。
しかしながら、強い炎症や炎症を繰り返し起こしていると真皮層にメラニンが滴落したメラノーシスの状態となり、排出されずに残ってしまう(炎症後色素沈着が1年以上残っている場合)ことがあります。(タトゥーは真皮にインクを入れる施術ですが、インクではなく自身のメラニンで生じた状態です)こういったときにはスポット治療を行うことがあります。スポット照射での治療の場合は、施術後の炎症後色素沈着や白斑を生じやすい状態のため、注意が必要となります。
治療
治療方法
炎症後色素沈着の比較的早期
トラネキサム酸などの内服
ハイドロキノンやアゼライン酸などの美白剤の外用(炎症の状態によりトレチノインの併用も検討)
肌の炎症の状態をみながら、
レーザートーニング
IPL
1年以上残り、真皮層への滴落が疑われる場合、
レーザートーニング
レーザーによるスポット照射