ジュベルック・レニスナ

ジュベルック・レニスナとは?

ジュベルック、レニスナともにPDLLA(ポリDL乳酸)と非架橋ヒアルロン酸を配合した製剤となります。PDLLAはポリ乳酸の1種で生体内で分解させる生分解性プラスチックの1種となり、溶ける糸の成分としても知られています。生体内で分解される際に

粒子径の違いからスキンブースターとして使用される製剤をジュベルック、ボリュームロスの改善効果を主な目的として使用される製剤をレニスナ(ジュベルックボリューム)といいます。

ジュベルック

ジュベルック(粒子径 24μm、最大34μm)はPDLLAを42.5mg、非架橋ヒアルロン酸を7.5mg含んだ製剤となります。粒子径が小さく、濃度も低いため、真皮層をターゲットとした製剤となります。
真皮層でのコラーゲン生成による肌のハリや小ジワ、ニキビ跡のクレーターの改善効果が期待されます。基本的な注入は手打ちや水光注射などでの全顔への注入やニキビ跡や毛穴の気になる部位への局所(ポイント)注入になります。目周りといった皮膚の薄い部位ではしこりができやすいため、手打ちや水光注射の注入は避ける必要があります。
治療間隔は1か月毎に3~5回の施術を行い、効果を維持する目的で1年毎の施術を行っていきます。持続期間の目安として、ジュベルックは12~16か月といわれています。

レニスナ

レニスナ(粒子径 51μm、最大81μm)はPDLLAを170mg、非架橋ヒアルロン酸を30mg含んだ製剤となります。粒子径が大きく、濃度も高いため、主に皮下組織層をターゲットとした製剤となります。
コラーゲン生成を強力に長期的に促進することでこめかみや頬などのボリュームを出したい部位や深いシワ(ほうれい線、ゴルゴライン、マリオネットラインなど)への効果が期待されます。
ニキビ跡治療でのサブシジョン時に併用をしたり、毛穴やニキビ跡のクレーター治療の目的でキュアジェットでの皮下への注入といった方法も行われています。
治療間隔は1か月毎に3~5回の施術を行い、効果を維持する目的で1年毎の施術を行っていきます。持続期間の目安としてレニスナは18~24か月といわれています。

PLLA(ポリL乳酸)製剤であるスカルプトラはレニスナと同じ皮下組織でコラーゲン生成を促進し、肌の弾力やボリュームの改善が期待できる製剤となりますが、強い刺激性から皮下硬結(しこり)が生じやすいという問題があり、副作用リスクを非常に少なくしたものがレニスナの位置づけになります。

レニスナはヒアルロン酸と比較すると即効性がないという欠点があります。また、ヒアルロン酸はヒアルロニダーぜで溶かすことができる(溶かしきれないこともある)が、レニスナは自然なボリュームアップとなるため、時間経過とともに効果を実感しやすくなりますが、溶かすことはできません。また、複数回の治療が必要となります。ヒアルロン酸と比べレニスナは粒子径が小さいため、血管塞栓のリスクもかなり低い製剤となります。

PDLLA(ジュベルック・レニスナ)の作用機序

加水分解による乳酸の生成

ジュベルックやレニスナが体内に注入されると、PDLLA粒子が水分と反応しながらゆっくりと加水分解されていきます。この過程で、モノマー単位の「乳酸」が少しずつ生成されます。

生成された乳酸は皮膚内のpHを低下させ、微弱な炎症を起こすことでマイルドに線維芽細胞を刺激し、活性化させる働きがあります。活性化された線維芽細胞によりコラーゲン(特にI型)やエラスチン、ヒアルロン酸などの細胞外マトリクスを新生します。この反応が長期にわたり持続していきます。

PDLLA粒子に対するマクロファージの反応

PDLLA粒子は生体にとって異物と認識され、PDLLA粒子の周りにマクロファージが集まります。マクロファージの一部が修復(M2型)へと分化し、抗炎症性サイトカイン(TGF-β、IL-10、PDGFなど)といわれる、炎症を抑制し組織修復を促す役割を持つサイトカインを分泌することで線維芽細胞や血管内皮細胞の活性化をもたらし、コラーゲン産生や血管新生の促進効果や、炎症による肌の赤みの改善効果が期待できます。

「加水分解による乳酸」と「マクロファージの反応」の違い
ポイント加水分解による乳酸の作用マクロファージの作用
起点化学反応(PDLLA + 水 → 乳酸)生体反応(異物認識により免疫細胞が反応)
細胞の関与非細胞性(物理・化学的プロセス)細胞性(免疫・炎症・修復に関わる生理反応)
主な作用pH低下・微弱な炎症環境 → 線維芽細胞刺激サイトカイン分泌 → 線維芽細胞・血管内皮細胞を活性化
美容効果との関係自然な炎症による線維芽細胞の刺激再生シグナルとして線維芽細胞や血管内皮細胞に作用、抗炎症作用
相互作用乳酸によるpH低下がマクロファージの極性化に影響を与えるM2型マクロファージが組織修復環境を強化
期待できる効果
ジュベルック

全顔3ccが目安となります

  • 肌のハリの改善、小じわや毛穴を目立ちにくくする
  • ニキビ跡のクレーターを目立ちにくくする
  • 肌の赤みや色むらの改善
レニスナ

注入量の目安はこめかみ、ゴルゴライン、マリオネットライン、ほうれい線が両側で各2~4cc、頬4cc程が目安となります

  • 深いシワ(ゴルゴライン、ほうれい線、マリオネットライン)の改善
  • こめかみや頬のコケ、額の凹みの改善
  • 首の横ジワの改善

PDLLA(ポリDL乳酸)とPLA(ポリ乳酸)やPLLA(ポリL乳酸)との違い

PDLLAはトウモロコシやジャガイモ、サトウキビなどのでんぷんを原料として処理をした成分で生体内では1~2年の時間をかけて水と二酸化炭素に加水分解され体内には残らない物質です。PDLLAはPLAの1種になります。PLAはポリ乳酸といわれ乳酸がエステル結合によって重合した高分子化合物のことをいいます。乳酸にはD体とL体という鏡像異性体が存在し、L体のみを重合させたものをポリL乳酸(PLLA)といい、D体のみをポリD乳酸(PDLA)、D体とL体がランダムに重合したものをポリDL乳酸(PDLLA)といいます。

ポリ乳酸(PLA)のうち、ポリL乳酸(PLLA)は「スカルプトラ」という商品名で商品化され以前から使用されています。この製品は米国のFDAにより「脂肪組織萎縮症」に対して、顔の脂肪の減少への治療のため承認を受けています。PLLA粒子は尖ったクリスタル状のため、表面積が大きく加水分解の際に乳酸が多くできるため強い酸性を帯び、強い炎症を生じる結果、コラーゲン生成効果は高いため、高い効果を得られやすいものの、副作用として肉芽形成や皮下のしこりが生じやすい製剤となります。PLLAは未承認製品だとマックームというポテンツァのCPチップでの薬剤導入用の製剤がありますが、マックームは皮下への手打ちでの注入を行うことはできません。

ポリDL乳酸(PDLLA)は球形の粒子で内部が網目状となっています。分解の際に乳酸の出る量はPLLAと比べて多くないため、副作用が少なくポリL乳酸よりも安全に使用できるようになりました。効果の発現を実感できるタイミングとしてはポリ乳酸の分解が進み、コラーゲンの促進が促された結果効果が実感できるようになるため、注入から1ヵ月以降で効果をより実感できます。

ポリ乳酸の歴史

ポリ乳酸はトウモロコシ、セルロース、サトウキビ、ジャガイモなどのでんぷんから製造される植物由来のポリエステルです。1800 年代、ペルーズにより低分子量 PLA を得ることに成功し、1932 年、デュポンの科学者ウォーレス・ヒューム・カロザースにより PLA の合成に成功しました。1954年に同社により高分子量PLAを合成することが可能となりました。その後、生体内での生分解性および無毒化の研究が進み、吸収性縫合糸材料、プレート、ネジなどに使用されるようになりました。注射用の製剤としては1999 年に、New-Fill という商品名で充填剤としての使⽤が承認されました。2004 年に、SculptraがHIV 関連脂肪萎縮症の治療薬として FDA によって承認され、その後美容目的での使用が拡大されていきました。

副作用・注意点

  • 注入後に赤みや軽度な腫れ(通常1~3日ほど)、内出血(1~2週間ほど)が出ることがありますが、自然に改善します。
  • 注射後の洗顔は当日から可能ですがこすらないように注意が必要です。スキンケアやメイクは翌日から可能です。
  • 飲酒、激しい運動、サウナ、入浴等は腫れや内出血が悪化するリスクがあるため、1週間程お控えください。
  • 妊娠中・授乳中の方 、抗凝固薬を服用中(血が止まりにくいため)、免疫抑制剤を服用中(感染のリスクが高まるため)、ケロイド体質の方は施術は行うことができません。
  • 治療部位に皮膚疾患や感染症のある方は症状が悪化するリスクや感染が他の部位に広がってしまう可能性があるため、施術を行うことができません。
  • 稀ですが、アレルギー、感染、硬結のリスクがあります。極めて稀に血管内への注入により塞栓のリスクがあります。