ヘルペス
ヘルペスとは
単純ヘルペスウイルス1型または2型が皮膚や粘膜に感染をし発症をします。強い痛みを伴う水疱の形成や水疱が破れた浅い潰瘍(ただれ)を形成します。一般的には1型はくちびるを中心とした顔面、2型は性器を中心とした下半身に多く発症するといわれていますが、オーラルでの行為により1型が性器周囲に、2型がくちびる周囲に感染することがあります。
口唇ヘルペスは、くちびるやその周囲に単純ヘルペスウイルスが感染をし小さな水ぶくれができ、潰れると潰瘍化します。初回感染時は症状が重症化しやすいです。治療後症状が消失しても、単純ヘルペスウイルスに一度感染してしまうと三叉神経節に潜伏感染を起こしてしまうため、初回感染後に症状が落ち着いても再発を繰り返してしまいます。
性器ヘルペス(性器に感染をしたヘルペス)では、性器周辺への感染をさすため、1型か2型かの違いは問いません。男性では性器や肛門周辺など。女性では膣周囲や肛門、子宮頸部などに感染をします。臀部や大腿にも症状が出現することがあります。性器に感染すると、神経をつたい上行し、主として腰仙髄神経節などに潜伏感染をおこします。初回感染では特に症状は強く出て重症化しやすいといわれています。強い痛みや発熱、リンパ節の腫脹などおこすことがあり、男性では梅毒の一次病変や亀頭包皮炎と鑑別が困難なことがあります。
咽頭炎、扁桃炎を起こすこともあり、発熱、リンパ節腫脹、強い咽頭痛、嚥下痛のため食事をとれなくなることがあります。
潜伏感染した単純ヘルペスウイルスは、症状がなくても体内に潜んだ状態となり、疲労やストレスなどの何らかの刺激によってウイルスが再活性化すると、神経を伝わって下行し、再び皮膚や粘膜に症状を起こしてしまいます。ヘルペスの60~70%は再発による症状といわれています。治療に用いられる抗ウイルス薬は潜伏感染しているヘルペスウイルスのDNAの排除はできないため、体内からの完全な除去はできず、再発を繰り返してしまいます。
初発時にヘルペスが疑われる際は、症状のある部位の皮膚擦過物によるHSV抗原迅速検査キットでの検査が保険適応で可能ですが病変や症状が乏しい場合は検査で陰性と出ることもあります。
口唇ヘルペス、性器ヘルペス(男性・女性)
原因 | 症状 | 検査 | 診断 | 治療 |
原因
単純ヘルペスウイルス1型もしくは2型が口唇ヘルペスではくちびるやその周囲、性器ヘルペスでは、性器周辺への微小な傷のついた皮膚、粘膜に感染することで発症をします。1度感染をしてしまうと、ウイルスが三叉神経節に潜伏感染をしてしまうためストレスや体調不良など免疫力が低下してしまうと再発を繰り返してしまいます。
症状が出ているときはウイルス量が多いため周囲にうつしやすい状態となります。症状がある部位に触れるだけでなく、ウイルスを含んだ唾液や体液に接触をすることで感染をしてしまいます。キスなどの直接的な接触以外でも、ウイルスがついたタオルや食器からも感染をしますし、感染者の唾液を多く含む咳の暴露でも感染する可能性があります。家族間での感染も多く、回し飲みなどは避けるよう注意が必要です。
ヘルペス発症時にウイルスが付着した手で目回りをこすり、角膜感染や起こすと角膜ヘルペスで失明を起こす危険があるため、触らないように注意が必要です。同様にウイルスが付着した手で性器周辺を触ると性器ヘルペスを起こす可能性があります。
口唇ヘルペスがある人との性交で広範囲に感染を起こすこともあります。唾液中にウイルスが含まれるため、オーラル(フェラチオやクンニリングスなどの口腔性交)や前戯により単純ヘルペスウイルスが性器や肛門周囲、乳頭周辺に感染することや、性器や肛門周囲から口周りへの感染をすることもあります。
症状
水疱が出現する前に前駆症状が出現し、発症をします。初感染時は水疱が多発したり、発熱やリンパ節の腫れなどを起こし重症化することがあります。再発時は軽症のことが多いです。
前駆症状
水疱が出現する前に皮膚にピリピリ、チクチク、ムズムズなどの違和感を感じることがあります。
皮膚症状(赤み、水疱)
前駆症状の後、半日以内に赤みや腫れが出現します。この時期は患部でウイルスの増殖が活発に行われています。その後1~3日程で水疱ができてきます。(水疱内には多量のウイルスが含まれます)。かゆみやほてり、痛みなどを感じようになります。水疱が破れたじゅくじゅくした部位はウイルス量が多く他の粘膜や傷のある皮膚へ感染をおこしてしまうため触れないよう気を付けてください。
唇の周り以外でも、口の中(口内、口腔、舌など)にでき口内炎のようになることや、鼻の下などにできることもあります。
皮膚症状(かさぶた)
水ぶくれが次第にかさぶたとなって、1~3週間くらいで自然に症状が治っていきます。
潜伏期間
感染機会から症状が出るまで1~3週間で2週間前後が多いです。症状が出ない場合も多く、感染時期がはっきりとしないことが多いといわれています。
検査
通常は診察により診断を行いますが、下記の方法で検査をすることもあります。
初発時かつヘルペスが疑われる際は、症状のある部位の皮膚擦過物によるHSV抗原迅速検査キットでの検査が保険適応で可能ですが病変や症状が乏しい場合は検査で陰性と出ることもあります。
採血による抗体検査もありますが、血液検査による抗体検査の場合は感染機会から1か月経過しないと陽性となりません。血液検査の結果が陽性だったとしても口唇ヘルペスと性器ヘルペスの区別ができず、過去に水疱瘡の罹患歴がある場合も稀に陽性と出てしまう可能性(偽陽性)があります。また、大部分の方が単純ヘルペスウイルスに既感染であるため、抗体検査が陽性のときは過去に感染があったことの証明(いつの感染かまでははっきりしない)にすぎません。
診断
問診、視診などの診断により診断を行います。
治療
抗ウイルス薬の治療を行います。
抗ウイルス薬
アシクロビル(ゾビラックス) 200mg 1回1錠 1日5回 5日間
バラシクロビル(バルトレックス)500mg 1回1錠 1日2回 5日間
ファムシクロビル(ファムビル)250mg 1回1錠 1日3回 5日間
この薬はヘルペスの症状が出たら、できるだけ早く内服を開始することが重要となります。ウイルスの増殖を抑え症状の悪化を抑え、回復を早める薬のため、かさぶたになってしまった段階ではほとんど効果が期待できません。
再発の際は前駆症状に気づいたらすぐに医療機関を受診し治療を開始することで、ウイルスの増殖を抑え症状を抑えることが可能となります。
保険診療時は抗ウイルス薬の塗り薬(ビタラビン軟膏やアシクロビル軟膏など)と、抗ウイルス薬の内服薬を同時に処方することはできません。
口唇ヘルペスや性器ヘルペスの発症している時にアメナリーフを処方することはできないため、PIT療法のみの使用法になります。
ヘルペス性尿道炎
男女ともに起こりえます。外陰部の皮膚や粘膜に症状がなく尿道炎単独のことがあります。激しい排尿痛が特徴です。
初発時にヘルペスが疑われる際、尿道分泌物を用いたHSV抗原迅速検査キットでの検査が可能ですが病変や症状が乏しい場合は検査で陰性と出ることもあります。
PIT療法
PIT(Patient Initiated Therapy)とは、あらかじめ処方された薬剤を再発の初期症状(ピリピリ、チクチク、ムズムズなどの前駆症状)に基づいて患者さん自身が判断をして服用開始する治療方法のことをいいます。
対象となる患者さん
再発性の単純疱疹
再発頻度が1年間で3回以上
再発の初期症状を判断でき、内服ができる
薬と服用方法
PIT療法の保険適応のある薬
ファムビル「ファムシクロビルのジェネリックにはPIT療法の保険適応がありません」
アメナリーフ
PIT療法で処方できる回数は1回分となるため、PIT療法後は医療機関を受診し、再発分の処方が必要となります。
ファムビル
再発の初期症状が生じた6時間以内に1回目を内服(ファムビル 250mg 4錠)、その後12時間後に2回目(ファムビル 250mg 4錠)を内服を行います。2回の内服で治療が完了します。
アメナリーフ
アメナリーフの処方は帯状疱疹と、PIT療法のみとなります。口唇ヘルペスや性器ヘルペスの発症している時にアメナリーフを処方することはできないため、PIT療法のみの使用法になります。
再発の初期症状が生じた6時間以内に1回内服(アメナリーフ200mg 6錠)をし、単回内服で治療が完了します。
再発抑制療法
再発抑制療法は性器ヘルペスの再発を繰り返す場合に行われます。
バラシクロビル(バルトレックス)を内服している期間はヘルペスウイルスの増殖が抑えられるため、内服している間はヘルペスの再発を抑えることができます。1年間の内服中にヘルペスの再発を抑え、免疫力を回復させることで簡単に再発しないようにります。
1年間バラシクロビル(バルトレックス)500mg 1回1錠 1日1回の内服を行います。内服中でも再発をすることがあるため、再発時はバラシクロビル(バルトレックス)500mg 1回1錠 1日2回 5日間の内服を行い、その後は元の内服に戻します。
1年間内服継続し終了後に再発が2回見られたら、さらに継続するかの検討を行います。
対象となる患者さん
再発性の性器ヘルペス(口唇ヘルペスは適応がありません)
再発頻度が1年間で6回以上