B型肝炎
概要
B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)が血液や体液を介して感染することで発症をします。一時的な感染で終わる一過性感染と生涯にわたり感染が続く持続感染があり、成人での感染では一過性感染で終わることが多く、持続感染化することは稀といわれています。
HBVの持続感染は出産時もしくは乳幼児期の免疫系が発達していないタイミングで感染をし、HBVを完全に排除できずウイルスが体内に存在している状態となり成立します。大部分は肝酵素が基準値内で症状のない「キャリア」として、感染後数年~数十年は持続感染の状態で経過するものの、症状がなくても他人に感染させる可能性のある状態となります。その後、免疫系が発達し10~30代でHBVの排除のため感染した肝細胞を破壊し肝炎を起こします。その大部分は非活動性キャリア(HBe抗体陽性)といいウイルス量は少なく、肝炎は収まり肝機能がその後も安定して経過をしますが、10~20%では慢性肝炎の状態となり、将来的に肝硬変や肝細胞癌へと進行をしていきます。
一過性感染では70~80%が不顕性感染といわれる症状のない感染ですが、20~30%では急性肝炎を起こし、その約2%で劇症肝炎を発症するといわれ、劇症化時の致死率は60~70%といわれています。
潜伏期間
感染から症状が出るまで1~6か月
検査可能時期
感染機会から2か月もしくは35日(検査法により異なります)
感染部位
全身(粘膜、皮膚、傷のある部位から感染をします)
感染経路
B型肝炎ウイルスを含む感染した体液(唾液、膣分泌液、精液、母乳など)や血液を介して感染をします。傷などがない健常な皮膚を通過して感染することはないといわれていますが、擦り傷などのある皮膚や粘膜(口腔、膣)に付着すると感染をするため、傷のある皮膚への体液の付着や不衛生な出血を伴う医療・民間療法、針の使いまわしなどで感染の原因となります。
性行為での感染は通常の膣性交だけでなく、オーラル(フェラチオやクンニリングスなどの口腔性交)やアナル(肛門性交)での感染もおこします。
唾液にもウイルスは存在しており、唇をあわせるような軽いキスであれば感染の心配はありません。ディープキスや唇のささくれから出血をしていたり、歯茎から軽く出血をした状態でのキスでは感染の可能性があります。
症状
B型肝炎は急性肝炎と慢性肝炎に分かれます。
成人感染では急性肝炎は感染して1~6か月の潜伏期間後、全身倦怠感や悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などの症状が出現します。症状は数週間から6か月持続し自然に完治していきますが、稀に慢性肝炎となる場合があります。肝炎の症状が軽く自身では気づかずに治ってしまう場合もあります。急性肝炎のうち稀に致死率の高い劇症肝炎となる場合があります。
検査および治療
一般的なB型肝炎の検査はスクリーニングとしてHBs抗原検査を行います。HBs抗原はHBVに感染しているかどうかを示す検査となりますが、感染初期のウイルス量が少なく感染していても検査で陰性と出てしまうウインドウ期があるため、感染機会から60日経過してから検査が可能となります。急性肝炎時はHBs抗原が早期に陰性化してしまうため、IgM型HBc抗体の測定が診断に必要となります。
HBV-DNA定量検査といわれるより高精度の検査ではウィンドウ期が約34日とわれており、35日経過していれば検査可能となります。
通常の生活上は問題がないのですが、HBs抗原が陰性となっていても肝臓内などにHBV-DNAが存在する「オカルトHBV感染」の状態となることがあり、HBV感染の既往がある場合は免疫抑制剤や化学療法の治療を行う際、肝炎の再燃が起こることがあるためそのような治療前にはHBV感染についての検査が必要となります。
症状のないキャリア時はHBVが増殖しているが、ALTなど肝酵素の血液検査は基準値内で肝臓組織もほぼ正常の状態となります。血中のHBV-DNA量は多く、HBe抗原、HBs抗原ともに陽性で、周囲への感染リスクのある状態となります。
抗原・抗体についてのまとめは下記になります。
HBs抗原はB型肝炎ウイルスの外側の殻の部分で、感染の状態を調べるときに検査を行います。 →検査陽性:HBVに感染している
HBs抗体はHBs抗原に対する抗体で過去に感染をしその後治癒したことを示します。HBVワクチンを接種した後も陽性となります。
HBe抗原はHBVが増殖する際に血液中に放出されるたんぱく質でHBVが盛んに増殖している状態であることを表します。
HBe抗体はHBe抗原に対する抗体のため、感染を防ぐ働きはありません。 →検査陽性:HBVの増殖力が低下していることを示します
HBc抗原はB型肝炎ウイルスの内部粒子の表面を構成するタンパク質で、外殻(HBs)に囲まれているため、検出できません。
HBc抗体にはIgM型とIgG型があります。
B型急性肝炎の診断には、急性肝炎時には早期にHBs抗原が陰性化してしまうため、HBs抗原とIgM型HBc抗体の測定が必要となる。
IgM型HBc抗体はHBc抗原に対する抗体で、感染初期にあらわれ、数か月で消えます。→検査陽性:最近HBVに感染した
IgG型HBc抗体はHBc抗原に対する抗体で、IgM型の出現から遅れて現れ、生涯血液中に存在します。→検査陽性:過去の感染、HBVキャリア(B型肝炎ワクチンでは陽性にはなりません)
治療は急性肝炎時は肝臓を保護するような肝庇護薬や対症療法によりほとんどの人で完全に治癒します。
慢性肝炎の治療はインターフェロン療法や「ゼフィックス」「ヘプセラ」「バラクルート」「テノゼット」の核酸アナログ製剤の治療があります。
B型肝炎ワクチン
B型肝炎はワクチンで予防ができますが、ワクチンを接種していても十分な抗体が作られない場合は性行為によってB型肝炎に感染してしまう可能性があるため、3回の接種のあとにHBs抗体を測定し免疫が獲得できたかチェックをする必要があります。免疫を獲得できなかった場合は再度3回の接種を行いますが抗体が陰性時にはノンレスポンダーと判断されます。
成人でのB型肝炎ワクチンは「初回・1か月後・6か月後」の3回接種が基本接種となります。獲得した免疫は15年間持続するといわれますが、時間経過とともに免疫が低下し消失する場合があります。ワクチン接種をする年齢が早いほど免疫を獲得できる可能性は高いです。3回目の接種の後1~2か月経過したところで抗体検査(HBs抗体)を実施します。
日本では2016年10月からB型肝炎ワクチンが小児の定期接種となり、3回接種するようになったため、2016年4月以降の出生者ではほぼすべての人でB型肝炎に対する免疫を獲得できています。