クラミジア感染症

概要

クラミジア・トラコマティスという細菌が感染をすることにより発症する性感染症です。全ての性感染症の中で最も罹患率の高い感染症です。1度の性行為での感染率は30~50%といわれ、感染率が高いものの症状のない無症候性感染者が多くいるため、知らない間に自身が感染し、他の人にも感染させてしまう可能性のある感染症です。淋菌感染者の20~30%程度はクラミジアとの混合感染をしているといわれ、淋病症状が先行して出現する場合があります。性感染症に罹患し、性器の粘膜が炎症を起こした状態となるとHIVなど他の性感染症に非常に感染しやすい状態となるため、早期の発見、治療が重要となります。

潜伏期間

感染から症状が出るまで1~3週間で2週間前後が多いです。症状が出ない場合も多く、感染時期がはっきりとしないことが多いといわれています。

検査可能時期

感染機会の翌日から

感染部位

尿道、肛門、咽頭、膣、結膜 

上行感染により男性では精巣上体炎、女性では子宮頚管炎、骨盤内付属器炎、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)などを起こします。

感染経路

通常、性的な接触により感染をします。クラミジアが含まれた体液(精液、膣分泌液、唾液、肛門分泌物など)を介して感染をするため、通常の膣性交だけでなく、オーラル(フェラチオやクンニリングスなどの口腔性交)やアナル(肛門性交)での感染も起こします。

性的な接触だけでなく、咽頭感染者とのディープキスでも感染するため心当たりなく感染していることもあります。

胎児への産道感染も問題となっています。

症状

女性:排尿時の痛み、外陰部のかゆみ、おりものの量の増加や性状の変化、性交時痛など

クラミジアは最初に子宮の入り口にあたる子宮頸部の細胞に感染を起こします。尿道炎、膣や子宮頚管炎のため上記の症状が生じます。治癒をせずに進行してしまう、もしくは治癒を行うも体内から完全に排除されずに残存して進行してしまう(治癒失敗)と、子宮内膜炎による不正出血や骨盤内付属器炎(卵巣炎や卵管炎)、激しい腹痛となる肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)などを起こすことがあります。卵管炎が進行し両側の卵管が癒着のため閉塞すると不妊症の原因となることもあります。また、卵管の炎症は卵子を運ぶ機能が低下し、卵管妊娠(子宮外妊娠)を起こす可能性もあります。

男性:軽い排尿時の痛み、尿道の軽いかゆみや不快感、分泌物など

クラミジアによる尿道炎のため上記の症状が生じます。分泌物は淋菌のような膿性のものではなく、やや透明な粘液~漿液性です。治癒をせずに進行してしまうもしくは治癒を行うも体内から完全に排除されずに残存し進行してしまう(治癒失敗)と、陰嚢の腫れや痛み、発熱をおこす精巣上体炎の原因となり、中年以下発症での精巣上体炎の原因の多くがクラミジアとされています。

男女ともに咽頭、肛門、結膜に感染し炎症症状を引き起こすことがある。

咽頭:オーラルでの行為により感染します。性器感染と比べ治療に時間がかかると報告されています。感染をしても無症状のことが多いですが、上気道炎症状やのどの違和感、咽頭痛、リンパ節の腫れなどいわゆる風邪様症状を起こします。症状がいわゆる風邪と似ているため気づかれないことが多いです。クラミジア感染者の10~20%で咽頭からクラミジアが検出されるといわれており、無症状であっても周囲への感染拡大のリスクがあります。

結膜:分泌物が付着した手などを介して感染することがある。充血や目やに、まぶたの腫れなどを起こす。

肛門:アナルでの行為や分泌物が直腸へ流れ込むことで感染を起こします。肛門の痛みや出血、軽度の下痢などをおこすといわれていますが、85%以上は感染しても無症状といわれています。直腸検体は保険適応ではなく自費となるため心当たりがある場合は自費にはなりますが検査を行うことも再感染や周囲への感染拡大を防ぐために有効となります。直腸感染でのアジスロマイシンの治療奏効率は76.4%、ドキシサイクリンでは96.9%という報告があり、直腸感染が疑われる際や、アジスロマイシンでの治癒失敗時はドキシサイクリンでの治療が必要となります。

検査および治療

検査は即日検査と通常検査(一般検査といわれることもある、核酸増幅法での検査)があります。使用する検体は「咽頭うがい液、膣ぬぐい液(膣分泌液)、肛門ぬぐい液(肛門分泌液)」となります。

即日検査は全て自費の検査となります。イムノクロマト法などを使用したキット検査となり、数十分程で検査結果が出るため、受診当日にすぐ検査、治療を行うことができます(混合診療はできないため、自費での検査の結果治療を行う場合は自費での治療となります)。症状が無い場合やスクリーニングでの検査では感染をしていても陽性と出てこない「偽陰性」の可能性が高いため、スクリーニング検査や治癒確認には適していません。

通常検査は自費もしくは保険(症状がある場合のみ)での検査となります。核酸増幅法での検査は特殊な検査機器を使用するため外部施設へ検査を依頼し、検査結果が出るまで数日要する点が欠点ではありますが、検査の精度が高く推奨されています。

肛門ぬぐい液での検査は保険適応外の検査、咽頭は保険での検査が難しい(同じ月に複数部位の検査をすることができない)です。混合感染の可能性を考慮したスクリーニング検査や症状のない部位の検査を行う場合は自費での検査となります。

自然治癒はしないため、症状に関わらず感染が疑われる場合は早期の検査と治療を行い、進行を防ぐ必要があります。治療は抗菌薬となりますが、抗菌薬内服後に症状が無くなっても病原菌が体内に残っていることがあるため、抗菌薬服用後「2週間後以降」に治癒確認検査が必要となります。混合感染の可能性を考えて淋菌の同時検出検査を行った際に淋菌が検出された場合は淋菌の治療も行うのですが、ニューキノロン系、テトラサイクリン系、マクロライド系への耐性をもっているため、セフトリアキソン点滴での併用治療が必要となります。

治療は抗菌薬になりますが、淋菌感染で使用されるペニシリン系、セフェム系は無効となります。

アジスロマイシン、シタフロキサシン、ドキシサイクリンなどが主に使用されます。アジスロマイシンは単回投与のため、1回のみの服用で治療が可能のため、飲み忘れもなく十分な治療が可能となります。飲み忘れや症状が消失したからといって自己中断をしてしまい、治癒確認を行わないと体内に病原体が残ったまま感染が慢性化し進行してしまったり、抗菌薬が効きにくい「耐性化」をしてしまう可能性があるため、指示された通りの内服と治癒確認検査を行うことが重要となります。

直腸検体が陽性時はリンパ肉芽腫による重症化を防ぐため、治療奏効率の低いアジスロマイシンではなく、ドキシサイクリンの服用を行う必要があることと、通常の治療より長い3週間の内服を行う必要があるといわれています。

クラミジアが陽性とでて治療後も症状が残る場合は、マイコプラズマ、ウレアプラズマの混合感染の可能性を念頭に検査をすすめる必要があります。クラミジアとマイコプラズマ・ジェニタリウムの同時検査は保険ではできません。ウレアプラズマの検査・治療は保険ではできないため自費での検査治療となります。(初診時に自費検査で多くの病原体を検査する場合もあります。)

症状が軽い場合は通常検査の結果を待ち、感染原因が判明してからの治療が最善の治療を行うことができますが、症状が強く結果を待てない場合は「非淋菌性尿道炎」として治療を開始することがあります(クリニックや症状によって検査と治療方針が異なることがあります)。

性病感染時は他の性病にも混合感染している場合や、症状の出現していない部位にも感染していることがあります。保険診療での検査の範囲や項目は限られているため、スクリーニングも含めた広範囲の検査は自費となるが行った方が感染状況や治癒確認にとって重要となります。治癒に時間のかかるもしくは難しい部位での感染がある場合は少量の病原体の残存による再発やパートナーに移し、移されたりしてしまうことにより再感染してしまうことがあります。