PEP(HIV暴露後予防内服)
HIV感染の可能性がある暴露後に、感染を防ぐために抗HIV薬を内服する方法です。暴露後72時間以内に開始をすることが推奨された、HIV感染のリスクを下げるための予防方法になります。性行為、針刺し事故、針の使いまわし、性暴力などのHIV感染が疑われる暴露後に使用されます。PEPを開始する前にPEPの開始が可能かどうかの血液検査を行います。
暴露の機会が頻回にある場合ではPrEP(暴露前予防内服)の方が適している場合があります。
また、他の性感染症(梅毒、クラミジア、淋菌)の感染予防のためにドキシペップという方法があり、必要に応じて併用を行うことができます。
CDCでの臨床ガイダンスでは、暴露後72時間を超えたPEPは推奨されていません。
PEPの対象者
相手がHIV感染者もしくは不明な人との性行為で「コンドームが破れた場合やコンドームをしていない場合」
HIV陽性者への針刺し事故
加害者がHIV感染者もしくは不明時の性暴力
などが対象となります。
PEP開始前の血液検査
HIV検査、B型肝炎の検査、C型肝炎の検査、腎機能の検査を行う必要があります。HIV以外の他の血液媒介感染症の発症も念頭において、CBC(血液一般検査)、肝機能検査、性感染症のスクリーニング検査(クラミジア・淋菌・梅毒)も行う事が推奨されています。
HIV検査 → 陰性の確認
第4世代のHIV抗原・抗体検査を行い陰性の確認を行います。陽性時はHIVかどうかの確定診断を行うための検査を行いHIV感染陽性時はHIVの治療を開始するため、PEPを行うことはできません。
B型肝炎の検査
抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)では被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合において、専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。とされています。
HBs抗原検査を行い陰性の確認を行います。B型慢性肝炎の方では、PEP終了後の薬剤中断によりHBV再活性化を引き起こしB型慢性肝炎が増悪する可能性があります。適切な経過観察と検査が不可欠といわれています。
C型肝炎の検査
HCV抗体検査を行い確認を行います。C型慢性肝炎か否かでPEPを行うことができるかは変わりはありませんが、HIV感染が疑われる場合では、HIVだけでなくHBV・HCVも同時に感染するリスクがあります。HCVはHIV同様に血液・体液を介して感染をします。HCVはPEP(予防内服薬)は存在しないため、曝露後の感染を早期に把握することが唯一の対応策となります。暴露直後の検査および曝露後のフォローアップで新規感染か既感染かを見極めることができます。
腎機能検査
抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)では被曝露者に腎機能障害がある場合、専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。とされています。CDC上では腎機能低下時は「Zidovudine(ジドブジン、AZT)+Lamivudine(ラミブジン、3TC)」の2剤に「Raltegravir(ラルテグラビル、RAL)」もしくは「Dolutegravir(ドルテグラビル、DTG)」を加えた3剤でのPEPが推奨されています。
腎機能低下がある場合では、専門の施設でのPEPが必要となります。
PEP薬
抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)では、ツルバダ®は基本的にはデシコビ®配合錠(TAF/FTC)に代替可能と考えられていますが、米国CDCのガイドラインでは曝露後予防内服として「ツルバダ®の代替薬としてデシコビ®が使用可能である」との見解は示されていません。研究結果などから同等の効果が期待できると考えられ、多くの医療機関では採用薬としてツルバダ®はデシコビ®に置き換えられているとされています。
PEPではレジメンに則り28日間の内服を行います。
推奨されるレジメン
米国CDC、抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)での推奨レジメン
ツルバダ(TDF/FTC ) 1回1錠 1日1回 + アイセントレス(RAL) 1回1錠 1日2回
ツルバダ(TDF/FTC ) 1回1錠 1日1回 + テビケイ(DTG) 1回1錠 1日1回
抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)での推奨レジメン
デシコビ(TAF/FTC ) 1回1錠 1日1回 + アイセントレス(RAL) 1回1錠 1日2回
デシコビ(TAF/FTC ) 1回1錠 1日1回 + テビケイ(DTG) 1回1錠 1日1回
ビクタルビ®配合錠(BIC/TAF/FTC) 1回1錠 1日1回
米国CDCでの推奨レジメン(腎機能低下時)
「Zidovudine(ジドブジン、AZT)+Lamivudine(ラミブジン、3TC)」の2剤に「Raltegravir(ラルテグラビル、RAL)」もしくは「Dolutegravir(ドルテグラビル、DTG)」を加えた3剤
PEP中とその後の検査スケジュール
時期 | 検査内容 |
---|---|
直後(Day 0) | HIV検査、肝機能、腎機能、HBV、HCV、梅毒、血算 |
4週後(PEP終了時) | HIV検査、肝機能、腎機能 |
12週後、24週後 | HIV検査(感染の有無の最終確認) |
C型肝炎、B型肝炎、梅毒などの感染リスクがある場合ではウィンドウ期を考慮した上で適時検査を行う必要があります。
注意点・副作用
軽度の副作用(吐き気、倦怠感、頭痛など)はよくあるが、通常は軽快します
PEPはHIVを100%防ぐものではないですが、高い確率で感染を防ぐことができます。継続的な暴露がある場合では、予防にはPrEP(曝露前予防)の方が適している場合があります。
参考
CDC Clinical Guidance for PEP https://www.cdc.gov/hivnexus/hcp/pep/index.html
Updated Guidelines for Antiretroviral Postexposure Prophylaxis After Sexual, Injection Drug Use, or Other Nonoccupational Exposure to HIV—United States, 2016 https://stacks.cdc.gov/view/cdc/38856
抗HIV治療ガイドライン https://hiv-guidelines.jp/2025/part01.htm