花粉症
花粉症について
花粉症は、スギやヒノキなどの植物の花粉が原因で引き起こされるアレルギー性疾患の一種です。北海道ではシラカバが原因となることがあります。正式には「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれ、春先のスギ花粉やゴールデンウィーク頃のヒノキ花粉が特に有名ですが、他にも夏のイネ科植物や秋のブタクサなど、年間を通してさまざまな花粉によって発症する可能性があります。
花粉症は現代の日本において国民病とも言えるほど一般的な病気といわれており、日本人のおよそ4人に1人が花粉症を患っていると言われています。
花粉症の原因
花粉症はアレルギー反応の一種です。アレルギーとは、本来は体を守る免疫機能が、特定の物質(アレルゲン)に対して過剰に反応してしまう状態をいいます。花粉症では、スギやヒノキなどの花粉がアレルゲンとなり、体内に侵入した際に免疫システムが異物と認識して過剰な反応を示します。
花粉はマクロファージという細胞に貪食された後、異物として認識をされリンパ球にその情報が伝えられてIgE抗体が産生されます。IgE抗体が肥満細胞の表面にあるIgE受容体に結合した状態(感作された状態)となります。この状態では特に肥満細胞は何も活動はしないのですが、アレルゲンが再度体内に侵入をし、肥満細胞に付着したIgE抗体に結合をすると肥満細胞が脱顆粒をしてヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質を放出し、平滑筋収縮、血管拡張、血管透過性亢進、腺分泌亢進などにより、鼻水やくしゃみ、鼻づまり、目のかゆみなどのアレルギー反応を起こします。
ヒスタミンは主に神経を刺激することで、くしゃみや鼻水の原因、ロイコトリエンは血管を刺激することで鼻づまりの原因となります。
今まで花粉症になったことがなかったとしても、昨年までの花粉で抗体が許容量の限界にきて、今年から花粉症になってしまう、花粉症デビューしてしまう可能性もあります。
花粉・アレルゲンの種類 | 主な植物・物質 | 飛散・存在時期 | 備考 |
---|---|---|---|
スギ花粉 | スギ | 2月〜4月(ピーク:3月) | 日本で最も多い原因。関東・関西で多く飛散。 |
ヒノキ花粉 | ヒノキ | 3月〜5月(ピーク:4月) | スギの後に飛散。スギ花粉症患者の多くが併発。 |
シラカバ花粉 | シラカバ | 4月〜5月(ピーク:4月) | 北海道・東北など寒冷地に多い。果物アレルギーと関連(口腔アレルギー症候群)も。 |
イネ科花粉 | カモガヤ、オオアワガエリなど | 5月〜7月 | 河川敷・空き地に多い。症状は強めの場合も。 |
キク科花粉 | ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ等 | 8月〜10月 | 比較的軽症だが、鼻炎や喘息の原因にも。市街地に多い。 |
室内アレルゲン | ダニ、ハウスダスト、カビ、ペットの毛など | 通年 | 花粉症とは異なるが、合併例が多く、注意が必要。 |
症状
花粉症は鼻や目だけでなく、喉や皮膚、全身症状を起こすことがあります。
- 鼻:くしゃみ、透明な鼻水、鼻づまり
- 目:かゆみ、充血、涙目
- 喉:喉のかゆみ、咳
- 皮膚:皮膚のかゆみや湿疹(赤みや肌荒れの原因となることも。花粉症皮膚炎ともよばれています。)
- 全身症状:倦怠感、集中力の低下、微熱、頭痛
全身症状は風邪と似ているため、シーズン時は風邪と区別がつきにくいこともあります。
検査
血液検査でスギ、ヒノキなどの特異的IgE抗体値を測定します。
IgE抗体とは、1型アレルギー反応に関与する免疫グロブリンです。特定のアレルゲンに感作され反応するものを「特異的IgE抗体」といい、血液検査でこの「IgE抗体」の総量、「特異的IgE抗体」を調べることができます。血液検査だけで多くの項目を調べることができますが、この検査はアレルゲンによる「感作」の状態をみる検査のため、検査結果が症状の有無と相関しないことがあります。
特異IgE抗体が低いもしくは0であったとしても、アレルゲンの暴露により症状が出ることや、特異IgE抗体が高くても、症状が出ないことがあるため、検査結果は絶対的なものではなく、参考にしつつ実際の症状の有無で診断をすることが多いです。
検査方法は他に、パッチテストやブリックテスト、負荷テストがありますが、アナフィラキシーを起こす可能性がある検査となります。
陽性=症状ありではない(偽陽性)
- IgE抗体が検出されても、実際にアレルギー症状が出るとは限らない。
- 体内に抗体があるだけで、臨床症状を伴わない「感作のみ」の状態も多い。
- View39などの多項目スクリーニング検査では、思わぬ陽性結果が出ることもあります。
陰性=安全とは限らない(偽陰性)
- 血液中にIgE抗体が少なくても、皮膚や粘膜で反応を起こすことがある。
- 口腔アレルギー症候群(OAS)やアスピリン喘息など、IgEを介さないタイプのアレルギーには反応しない。
特異的IgE抗体同時多項目測定法(MAST36、MAST48mix、VIEW39)
複数項目の特異的IgE抗体を測定する場合、MAST36、MAST48mix、VIEW39が行われます。MAST36とVIEW36の違いになります。
MAST36では共通の33項目+コナヒョウダニ、モモ、トマト
VIEW39では共通の33項目+ヤケヒョウダニ、ゴキブリ、ガ、マラセチア、サバ、リンゴ
共通項目
ハウスダスト、ネコ皮屑、イヌ皮屑、杉、ヒノキ、ハンノキ、シラカンバ、カモガヤ、オオアワガエリ、ブタクサ、ヨモギ、アルテルナリア、アスペルギルス、カンジダ、ラテックス、卵白、オボムコイド、ミルク、小麦、大豆、ソバ、ピーナッツ、米、ゴマ、エビ、カニ、キウイ、バナナ、鶏肉、牛肉、豚肉、マグロ、サケ
治療
症状に合わせて薬を選択、組み合わせていきます。
内服薬
抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン拮抗薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬などの飲み薬で治療を行います。
鼻粘膜で肥満細胞から分泌されたヒスタミンは、三叉神経の知覚神経終末を刺激し、延髄を介してくしゃみや鼻水の原因となります。
抗ヒスタミン薬は、このヒスタミンの働きをブロックすることにより、花粉が鼻粘膜にくっついても、くしゃみや鼻水が出ないようにする働きがあります。
鼻粘膜で肥満細胞から分泌されたロイコトリエンは、周囲の血管を拡張させ鼻粘膜の腫れを引き起こし、鼻づまりの原因となります。
ロイコトリエン拮抗薬は、ロイコトリエンという物質を受容体をブロックすることでその働きを抑え、鼻粘膜の腫れを抑えることで、鼻づまりの改善に効果があります。
ケミカルメディエーター遊離抑制薬は肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが遊離するのを抑えることで症状が出るのを抑える働きがあります。効果が出るのに1~2週間程かかります。
点眼薬
目のかゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬やケミカルメディエーター遊離抑制薬などの目薬を使用します。
点鼻薬
鼻症状が強い場合には、ステロイドや血管収縮薬の点鼻薬を使用します。
鼻水で薬が流れてしまうため、点鼻の前には鼻をよくかんで使用する必要があります。
ゾレア
重症・最重症のスギ花粉症で、抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア)を皮下注射する治療法です。既存の治療で効果が不十分な場合、抗ヒスタミン薬の内服と併用を行いながら、花粉症を根本から抑える効果が期待されます。
血液中の総IgE値(濃度)と体重で投与量を投与間隔を決定します。2週間もしくは4週間おきに、1~4本、皮下注射を行っていきます。
ゾレアでの治療はスギ花粉が対象となります。投与可能時期はスギ花粉の飛散期間に限られるため、2~5月に投与することになります。
ゾレア治療を受けられる方
以下の全てを満たす方が対象となります。
12歳以上で、体重が20~150㎏の範囲
血液検査で、血液中の総IgE値が30~1500IU/mlの範囲
スギ花粉のアレルギー検査結果が陽性(血液検査で特異的IgEがクラス3以上)
症状の程度が「重症」「最重症」の方
従来の治療法で効果がみられなかった方
※「重症」「最重症」については、鼻閉とくしゃみまたは鼻水の程度によって判断されます。
重症:くしゃみまたは鼻をかむ回数が1日に11〜20回、または、鼻づまりの程度が強く1日のうちかなりの時間を口呼吸で過ごしている方。
最重症:くしゃみまたは鼻をかむ回数が21回以上、または、1日中、完全に鼻が詰まっている方。
従来の治療法(内服、点眼、点鼻)を行った後、治療効果が不十分な場合にゾレアが適応となります。治療開始の前に、総IgE値とスギ特異的IgE値を測定する必要があります。(直近の総IgE値と体重で投与量が決まります。総IgE値が異常高値の場合や、スギ特異的IgE値がクラス2以下の場合は適応外です。
ゾレアは高額な医薬品になるため、投与量・投与間隔により金額は変わりますが、3割負担でも3565円~52286円となります。ゾレア単独での治療はできないため、抗ヒスタミン薬等の内服も必要となります。
ノバルティス社のホームページの季節性アレルギー性鼻炎コーナー( http://hajimete-xolair.jp/ )で概算費用を確認できます。
治療効果はそのシーズン限りとなるため、6月以降に舌下免疫療法によるスギ花粉症に対する根本治療を検討するのがおすすめです。
副作用について
まれですがアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があるため(国内の臨床試験ではアナフィラキシー発現者はいませんでしたが、海外の喘息を対象とした臨床試験では、成人で0.1%、小児で0.2%にアナフィラキシーが生じました(ノバルティス社ホームページより))、初回注射後は1時間は注意が必要となるため、クリニックの近くに待機する必要があります。
舌下免疫療法
「スギ花粉症」と「ダニ抗原に対するアレルギー性鼻炎」が、舌下免疫療法の対象となります。
舌下免疫療法とはアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少量ずつ舌の下に投与することで、体を慣らし、アレルギー反応を抑える治療法です。通称「SLIT(Sublingual Immunotherapy)」とも呼ばれます。治療により80%の方で効果が見られる(逆にいうと20%は効果がないということになります)根本的な治療法になります。
治療を検討している方への注意点
- 3~5年という長時間の治療を受けることができる
- 舌の下に薬を1~2分間保持したあと飲み込むことを毎日継続できる
- 月1回の診察ができる
- 治療内容について理解ができる
①すべての患者さんに効果を示すわけではなく、20%では効果が認められないこと
②効果があり終了した後でも効果が弱くなる可能性があること
③アナフィラキシーなどの重大な副作用がおこる可能性があること
④効果が出るまでに時間がかかること
対象となるアレルギー
現在、舌下免疫療法が承認されているアレルゲンは以下になります。
- スギ花粉症:花粉飛散期には治療を開始することができません。花粉飛散期の終了後(6月〜12月頃)の開始となります。
- ダニアレルギー(通年性アレルギー性鼻炎):通年で開始が可能となります。
治療の仕組み
- 初回投与(医療機関で実施)
ごく少量のアレルゲンを舌下に滴下し、アレルギー反応が出ないかを確認します。実際に舌下に投薬をし、滴下後30分は医療機関で安静に過ごす必要があります。安静時に異常がないことを確認し、30分経過した後に診察を行います。副作用(アナフィラキシーショックなど)がないことを確認し、同意書や治療方法などの説明や診察を受け終了となります。 - 増量期:内服開始後の14日間は、投与するアレルゲンの量を少しずつ増やしていき、体に慣れさせていきます。最初の7日間は少ない量を内服し、8日目からは増量した量を内服します(増量後の量はい時期の量と同じです)。
- 維持期(自宅で継続)
毎日決まった量を舌下に投与します。3週目からは毎日同量の薬を3~5年間継続します。
期待できる効果
- 鼻水、くしゃみ、目のかゆみなどの花粉症の症状軽減
- 治療薬の使用量の減少
ヒスタグロビン注射(保険適応)
ヒスタグロビン注射は「ヒスタグロビン注射液」というヒスタミンとヒト免疫グロブリンが結合した製剤の注射になります。通常は1回1バイアルを成人で週に1~2回皮下に注射を行い3もしくは6回で1クールとします。1クールで十分な効果が現れない場合はさらに1クールを行い、効果が現れた後は維持をするために3~4か月ごとに1回の注射を反復する治療となります。
ヒスタグロビン注射で少量のヒスタミンを繰り返し投与することで、免疫系がヒスタミンへの過剰反応を起こさなくなるようにする非特異的減感作療法となります。
注意点
効果が出るまで1か月程かかるため、花粉が飛散する1か月前ぐらいを目安に注射を始めると良いといわれています。
ヒト免疫グロブリンを使用した生物製剤のため、注射後3カ月は献血ができなくなります。また、規定の変更により将来的に献血ができなくなる可能性もあります。
注射により症状が強く出てしまう可能性があります。特に喘息発作時や月経中を含む前後、妊娠中では症状を悪化させる可能性があるため、接種を行うことができません。
ノイロトロピン注射(保険適応)
ノイロトロピンはワクシニアウイルスを接種したウサギの炎症皮膚組織から取り出した抽出物を有効成分とした薬剤になります。鎮痛作用(下行性疼痛抑制系の活性化)と起炎物質であるブラジキニンの遊離抑制作用、末梢循環改善作用、冷感・異常知覚改善作用などを有します。アレルギー性鼻炎に関しては、鼻汁分泌に関与するアセチルコリン受容体の増加を抑えることで鼻汁を出やすくするのを抑える働きや好酸球浸潤を抑制する働きにより症状を和らげる効果が期待されます。通常は1日1回ノイロトロピン1管を静脈内、筋肉内又は皮下に注射をします。毎日注射をすることも可能ですが、来院し注射をする必要があることから、週に1~2回の頻度が多いです。
注意点
アレルギー性鼻炎に使用できるの注射のみです。ノイロトロピン錠剤は保険適用はありません。
鶏卵、ウサギ、カゼインペプトン(ウシ乳及びブタ膵臓由来)が製剤の製造過程で使用されているため、これらにアレルギーがある場合は使用に注意が必要です。
妊娠中や授乳中は行うことができません。