トレチノイン・ハイドロキノン療法とは?

メラニンの排出を促進するトレチノインとメラニンの生成を抑えるハイドロキノンを組み合わせた外用治療のことをいいます。肝斑治療の他にレーザー治療後などの炎症後色素沈着やレーザー治療と併用されます。

トレチノイン、ハイドロキノンとも皮膚刺激性があるため肌に合った適切な濃度を使用し医師の指示の下治療を行っていきます。

併用の仕方について、東大式トレチノインハイドロキノン療法、ゼオスキンセラピューティック、ガウディセラピューティックなどの高濃度のトレチノインを使用することで強い剥離作用と効果を期待した方法、低濃度でのトレチノインハイドロキノン療法など様々な方法があります。

トレチノイン

トレチノインはレチノールの1種であるレチノイン酸のオールトランス型のことをいいます。

表皮細胞の増殖促進と角質の剥離を促進することで、肌のターンオーバーが促進され肝斑や日光性色素班、炎症後色素沈着等沈着したメラニンの排出を促します。真皮層では線維芽細胞の活性化や血管新生を促進することで、表皮角化細胞間や角質にヒアルロン酸などのムコ多糖類の沈着を促し表皮の水分量増やす働きや、真皮線維芽細胞のコラーゲン産生促進、MMP(細胞外マトリックス分解酵素)抑制などの作用により光老化に対する抑制効果による肌のリジュビネーション効果があるといわれています。美白目的だけでなく、小じわや毛穴の改善のために使用する場合もあります。

トレチノインを含むビタミンA誘導体ではメラノソームの転送抑制、チロシナーゼの転写阻害、メラニン合成阻害の作用もあるといわれています(メラノサイトへの作用については作用がないとする意見もあります)。

トレチノインは継続した使用により耐性化を起こし、本来の効果を発揮できなくなるといわれています。2~3か月程度の使用の後、1~2か月以上の休薬期間が必要といわれています。トレチノインを使用した外用薬治療では、Kligman’s formula. Triple combination cream(0.1%トレチノイン、5.0%ハイドロキノン、0.1%デキサメタゾン)が有名です。ステロイド剤が含まれているため肌の炎症を抑える働きはありますが、長期使用による皮膚委縮などの副作用が生じる可能性があります。

肌への刺激性には個人差があることや安全性を考慮して、決められた濃度ではなく、0.025%~0.1%の製剤を使い分けて治療に用いられることがあります。

過去にセラピューティックのご経験がある方やレチノール系(レチノール、パルミチン酸レチノール、グラナクティブレチノイドなど)を普段から使用している方では期待している効果が得られない可能性があります。

ハイドロキノン

ハイドロキノンはチロシナーゼの阻害をし、メラノサイトによるメラニンの合成阻害作用があります。細胞毒性もあるといわれ、白斑のリスクがあるといわれており、5%程度の濃度では色素脱出の報告はありませんが肌の状態ではそのリスクは否定できないため注意が必要となります。日中強い紫外線を浴びると逆にシミが濃くなることがあり、朝使用する場合は徹底した紫外線対策が必要となります。

ハイドロキノンのみでの使用では、すでに沈着したメラニンへは効果がないためターンオーバーによる排出を待つ必要があり効果の実感までは2か月程度継続した使用期間が必要となります。

初めての使用では接触皮膚炎をおこし、その炎症により色素沈着を起こす可能性があります。ハイドロキノンは外因性組織黒変症をおこす原因の1つとも考えられています。1%~2%のハイドロキノンクリームを⾧期間(> 6か⽉)使⽤した後、いくつかの⺠族で外因性組織褐変症を引き起こすことが報告されています。休薬期間を置き休薬期間中はアゼライン酸などの他の美白剤を使用することがおすすめです。

参考文献

吉村 浩太郎: トレチノインとハイドロキノン(イチからはじめる美容皮膚科マニュアル). デルマ (321), 44-52, 2022-04.

長濱 通子: 肝斑に対する外用治療 (特集 今,肝斑について考える. Pepars (175), 9-12, 2021-07

ロドデノール誘発性脱色素斑医療者(皮膚科医)向けの診療の手引き. 日本皮膚科学会 ロドデノール含有化粧品について(ロドデノール誘発性脱色素斑)https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/news/1405558264_1.pdf

Kligman AM et al. A new formula for depigmenting human skin. Arch Dermatol. 1975;111:40–48. 

吉村浩太郎. レチノイドの作用機序. 皮膚科診療プラクティス , 2004

古川 福実ほか編. ケミカルピーリング これが私のコツと技. 改訂2版. 南山堂, 東京, 2009

F Alan Andersen et al. Final amended safety assessment of hydroquinone as used in cosmetics. Int J Toxicol. Nov-Dec 2010;29(6 Suppl):274S-87.