TCAクロス
TCA クロスとは?
TCAクロスはTrichloroacetic Acid Chemical Reconstruction of Skin Scarsのことをいいます。クロス=「皮膚の傷跡の化学的な再構築」を意味します。高濃度のトリクロロ酢酸(TCA)をニキビ跡の萎縮性瘢痕に局所的に塗布し、皮膚の創傷治癒過程を活性化させることで、萎縮性瘢痕(特にアイスピック型、ボックス型のニキビ跡のクレーター)を改善する治療法になります。TCAは強いタンパク質の変性作用を持つため、皮膚のリモデリングを促進し、真皮層の線維芽細胞の活性化を促します。
TCAのニキビ跡へ効果を発揮する機序
TCAクロスのメカニズムは以下の3つの過程から成り立ちます。
① 高濃度TCAのタンパク凝固作用とフロスティング現象
TCAは強酸で、タンパク質を変性する働きがあります。TCAクロスでは50~100%の濃度(40%を使用する場合もあります)で使用されます。これをクレーターの底部に竹串や針などを使用し塗布をすると、塗布直後から白色変化(フロスティング現象)が発生します。フロスティングは角質全層から真皮層のタンパク質がTCAと化学反応を起こし、タンパク質が凝固変性を引き起こすことによって白色の沈着物を生じた状態といわれています。この治療法は、フラクショナルやニードリング(ダーマペンやダーマローラー)などと異なり、局所での治療に限定することで真皮層に強い再生を促す刺激を与え、強力にリモデリングを促す治療となります。クレーター周囲にある瘢痕組織がTCAにより変性することで瘢痕組織の除去効果も期待できますが、瘢痕組織の除去についてはレーザーで正確に蒸散させる炭酸ガスレーザーのアブレーションの方がより高い効果が期待できます。
② 線維芽細胞の活性化と真皮のリモデリング
TCAによる皮膚のダメージは真皮層の線維芽細胞を刺激することで、コラーゲン産生を促進し、クレーターの陥凹部分が徐々に持ち上がります。創傷治癒過程(炎症期・増殖期・成熟期)を経て、最終的に新しい皮膚組織の再構築を促していきます。
増殖期
- 線維芽細胞が活性化し、コラーゲンが生成されます
- 血管内皮細胞の遊走により血管新生が促進され、毛細血管がつくられます
- ケラチノサイトが遊走し、表皮の再上皮化が進みます
成熟期
- コラーゲンの再構築がすすみます
- 脆弱だった毛細血管が血管網を形成します
増殖期、成熟期では組織内の毛細血管が豊富なため赤みを帯びます。赤みが残ることでダウンタイムと認識をされますがその間コラーゲンの生成は進むことでクレーターが徐々に持ち上がっていきます。成熟期が進むことで赤みも軽減、消失していきます。
③皮膚の収縮と再上皮化
TCAクロス後、約1~2週間の間に基底細胞の増殖とケラチノサイトの遊走による再上皮化を経て、新しい皮膚へと置き換わります。また、TCAによる皮膚の収縮効果により、クレーターの輪郭が引き締まり、瘢痕の縮小効果が期待できます。TCAクロスは小さいニキビ跡ではTCAが塗布後周囲に広がってしまうことで、クレーターの陥凹は浅くなってもクレーターそのものが大きくなることがあります。
TCAクロスの適応
- アイスピック型瘢痕(Icepick Scars):深く鋭い陥凹を伴う瘢痕
- ボックス型瘢痕(Boxcar Scars):角ばった陥凹のある瘢痕
アイスピック型が1番の適応となります。
ローリング型瘢痕に対する効果は乏しく、サブシジョンとの併用が必要となります。
治療の頻度と期間
- 通常、4~8週間の間隔で3~5回の施術を行います。高濃度のものを初回から使用することでタンパク質の変性が強く出現してしまい、クレーターの悪化や赤み長期間残存してしまう可能性があります。濃度、塗布量、反応時間はフロスティングの程度や肌の経過を見ながら次回の施術時に調整を行っていきます。
- 複数回行った後の方がより効果が実感できるようになります。
施術の流れ
① 施術前の準備
- メイクや日焼け止め、皮脂をクレンジングで洗い落とします。
- 施術直前に消毒を行います。アセトンを使用し皮脂を拭き取る場合もあります。
② TCAの塗布
- 竹串を用いてTCAをクレーター部分の底面に塗布をしていきます。塗布直後から独特のピリピリとした痛みを感じます。
- フロスティングが発生したことを確認し、しばらく反応をさせた後にTCAをふき取ります。TCA塗布後から数分間でほぼ消失をしますが、じんじんと痛みが長引くこともあります。
- 施術部位を保護するためにワセリンを塗布する場合があります。
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TCAの濃度の決め方とフロスティングのふき取るタイミングは?
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フロスティングの色調により深達度はある程度予測できるといわれています。レベルⅠといわれる、うっすらとした白色変化で下の紅斑が透けて見える状態は表皮層レベルでの反応で肌質改善やキメを整える効果が期待されます。レベルⅡといわれる、均一な白色変化でうっすらと紅斑が観察できる白色変化は真皮乳頭層レベルでの反応でクレーターの改善効果が期待されます。レベルⅢといわれる、真っ白な白色変化は真皮乳頭層より深いレベルでの反応となり、濃度や反応時間が上がることでより深部進達しアイスピック型などの深いクレーターの改善効果が期待できます。クレーター治療へはレべルⅡ以上の深達が必要といわれています。瘢痕が強い部位ではレベルⅡまでしか達成しないともいわれています(薬剤が深達しにくいです)。施術者による濃度の決定、塗布方法や量、反応時間には経験によるところも大きく、習熟した医師による診察と治療が重要となります。
③ 施術後の経過
- 施術部位に白色変化(フロスティング)が生じます。数時間~数日でフロスティングは一度消失をし、その後に痂皮(黒いかさぶた)が形成されます。
- 痂疲は1週間程で自然に剥がれますが、その間は日焼けや摩擦は極力避け、無理に剥がさないように気を付けます。無理に剥がしてしまうと炎症後色素沈着や感染、瘢痕化のリスクが高まります。かさぶたとなった後はメイクが可能となります。
- 痂疲がはがれた直後はTCAによるタンパク質の変性のため、施術前よりもクレーターの陥凹が悪化した状態となり、赤みを帯びています。深いクレーターへの治療のため高濃度を使用する場合などでは、真皮網状層といわれる乳頭層より深いレベルでの凝固変性のため「ディープピーリング」といわれる状態となることがあります。この状態では上皮化まで10~14日程を要します。浸出液が出るためジュクジュクとした施術部位となるため、上皮化まで軟膏を使用した湿潤療法を行います。
- 3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は3か月程続くといわれています。赤みは数週間程で徐々に改善していきますが、長いと半年程つづくことがあります。
期待される結果とリスク
効果と限界
ピンポイントの深い瘢痕(特にアイスピック型)に対して効果的です
レーザー治療に比べて低コストでの施術となるが、瘢痕組織の除去といった正確性は炭酸ガスレーザーのアブレーションの方が高いです
TCAクロスの薬剤濃度や反応時間の調整には習熟した医師による診察と治療が必要となります
肌に対して使用する薬剤濃度が高いと「ディープピーリング」といわれる深達度のより深いピーリングの状態となります。高い効果が期待されるものの、瘢痕形成や施術後の合併症のリスクが高まるため、紫外線対策や軟膏での保護といったケアをしっかりと行う必要があります
施術後の注意点と副作用、リスク
長いダウンタイム
- 施術部位に白色変化(フロスティング)が生じます。数時間~数日でフロスティングは一度消失をし、その後に痂皮(黒いかさぶた)が形成されます。痂疲は1週間程で自然に剥がれますが、その間は日焼けや摩擦は極力避け、無理に剥がさないように気を付けます。
- 痂疲がはがれた後はたんぱく質の変性により陥凹が悪化し赤みを帯びた状態となります。3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は治療後3か月程続くといわれています。赤みは数週間程で徐々に改善していきますが、深達度が深い場合などの理由で長いと半年程つづくことがあります。
副作用、リスク
- 強い炎症による炎症後色素沈着
- 色素脱出(元々成熟瘢痕のため、白く抜けていた状態のものが気になってくる場合もあります)
- クレーターの悪化(より深くなってしまう)、拡大(クレーターが大きくなってしまう)
- 過剰な瘢痕形成(過剰なTCA塗布による肥厚性瘢痕やケロイド)
- 赤みの残存(TCAクロス後の毛細血管網が目立ってしまう)
- 感染(表在性細菌、真菌など) など
まとめ
TCAクロスは、トリクロロ酢酸の強力なタンパク凝固変性作用を利用し、皮膚の再生を促進するニキビ跡治療法です。線維芽細胞を刺激し、新しいコラーゲンの生成を促すことで、萎縮性瘢痕の陥凹部分を持ち上げ、肌の質感を改善します。高濃度のTCAを局所的に適用することで、瘢痕にピンポイントで作用し、皮膚のリモデリングを効率的に進めることができます。
ただし、1回の施術では効果が限定的であり、複数回の治療が必要です。また、施術後の適切なアフターケアが重要であり、日焼け対策や保湿を徹底する必要があります。他の施術と比べると、ダウンタイムが長く、リスクが高い治療となります。
施術に習熟した医師によるTCAクロスの治療が効果を最大化し、リスクを可能な限り抑えるのに重要な要素の1つとなります。
ニキビ跡に悩んでいる方は、TCAクロスを含む複数の治療法を組み合わせることで、より効果的な結果を得ることが期待されます。
参考
Teo Soleymani et al. A Practical Approach to Chemical Peels: A Review of Fundamentals and Step-by-step Algorithmic Protocol for Treatment. J Clin Aesthet Dermatol. 2018;11(8):21–28
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