帯状疱疹
帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは?
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella Zoster Virus)の再活性化によって引き起こされる皮膚の病気です。このウイルスは、幼少期に水痘(水ぼうそう)として感染した後、神経節に潜伏し、免疫力の低下などを契機に再活性化して帯状疱疹を発症します。主に体の片側に沿って帯状の発疹が現れ、強い痛みを伴います。帯状疱疹は80歳までに3人に1人は発症するといわれています。
顔面や頭部の帯状疱疹は注意が必要です。脳神経である、三叉神経(さんさしんけい)や顔面神経(がんめんしんけい)に帯状疱疹が現れることがあります。三叉神経は支配領域の感覚に関する神経で、その枝は眼球の角膜に分布しているため、角膜炎を起こし失明に至る可能性があります。顔面神経領域では顔面神経麻痺に加え、めまいや難聴、耳鳴り、耳周囲の痛みや水疱などの症状を起こすRamsay Hunt症候群を起こすことがあります。また、稀ですが髄膜炎・脳炎に発症することもあります。
ワクチン接種により発症を防ぐことができるため、ワクチン接種が推奨され(接種義務や接種努力義務はありません)、令和7(2025)年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象になりました。
原因
帯状疱疹の主な原因は、免疫力の低下によるものです。加齢、ストレス、疲労が主な原因となりますが、病気、手術、抗がん剤や免疫抑制剤の使用などによっても免疫力の低下が起こり、潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化します。特に50歳以上の方に多く発症します。
部位
帯状疱疹は、体のどの部位にも発症する可能性がありますが、発疹は通常、体の片側に限定され、神経に沿って帯状に分布します。以下の部位に多く見られます:
- 胸背部・腹部・腰部:最も一般的な部位で、肋間神経に沿って発疹が現れます。
- 顔面:重症化しやすく注意が必要です。脳神経の三叉神経に沿って発疹が現れます。
- 上肢・下肢:腕や脚にも発症することがあります。
症状
帯状疱疹の主な症状は以下の通りです:
前駆症状:発疹が現れる2~3日前から、皮膚の違和感、ピリピリとした痛みなどが出現します。
皮膚症状:前駆症状が出現してから2~3日後に発疹が出現します。発疹は赤み(紅斑)のなかにぷつぷつとした小さい水疱が複数存在し(集簇)、帯状に出現します。病変部位は知覚過敏や強い痛みをともなうことが多いです。通常は片側で、パラパラと出現することもあり、虫刺されや毛包炎との鑑別が必要な場合もあります。
痂疲化:痂疲はいわゆるかさぶたのことをいいます。炎症が落ち着いて回復に向かうと赤黒いかさぶたが目立つようになります。このかさぶたの下は皮膚が深くえぐれている(潰瘍化)ことが多く、引っ掻いて剥がしてしまうと目立つ跡(瘢痕)を残してしまうため、自然にはがれるのを待ちます。深い潰瘍では跡が残ってしまうため、治療後に目立たないようしっかりと治していく必要があります(特に目立ちやすい顔など)。
帯状疱疹関連痛:帯状疱疹後神経痛ともいわれます。帯状疱疹に伴い出現した痛みが長期(数か月から数年)にわたって持続するもののことをいい、高齢者で生じやすいといわれています。
検査
診察により、以下の検査を行うことがあります。
水痘・帯状疱疹の迅速検査(水痘ウイルス抗原定性(上皮細胞))
水痘・帯状疱疹ウイルスを皮疹や水疱からウイルスを検出する検査になります。5~10分程で検査結果が出ます。
水痘・帯状疱疹ウイルスDNAをPCR法で測定(単純疱疹ウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス核酸定量)
免疫不全状態の方が保険適応での検査の対象となるため、通常では行われません。
診断
医師による問診、視診、上記の検査結果などの診察により診断を行います。
治療法
帯状疱疹の治療は、早期に開始することが重要です。早期の治療により、跡を残りにくく目立たなくすることができます。
抗ウイルス薬の内服
ウイルスの増殖を抑えるため、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルの内服薬が使用されます。
抗ウイルス薬
バラシクロビル(バルトレックス)500mg 1回2錠 1日3回 7日間
ファムシクロビル(ファムビル)250mg 1回2錠 1日3回 7日間
アシクロビル(ゾビラックス) 200mg 1回4錠 1日5回 7日間
アメナメビル(アメナリーフ) 200mg 1回2錠 1日1回 7日間
経口内服での生物学的利用能はアシクロビルよりファムシクロビルやバラシクロビルで優れているため、通常はファムシクロビルやバラシクロビルが用いられます。
アメナメビルは腎機能による影響が小さい薬のため、腎機能に応じた用量調整が不要という、他の経口抗ウイルス薬と異なったメリットがあります。一方で、アメナメビルは髄液移行性がほぼないため、中枢神経に近い特に顔面、頭部といった脳神経領域の帯状疱疹に対しての治療では注意が必要となります。
抗ウイルス薬の点滴
重症時や顔や頭といった目や耳の症状を起こす可能性のある部位の帯状疱疹では入院施設のある専門の医療機関での点滴治療を行う場合があります。
鎮痛薬
高齢者では強く、慢性化する疼痛となりやすいといわれています。痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトロピン)、トラマドール(トラマール、アセトアミノフェンとの合剤のトラムセット)、トレンビタキシ(タリージェ)、プレガバリン(リリカ)などが使用されます。
外用薬
皮膚の保護を目的として、ワセリンやアズノール軟膏が使用されます。二次感染を防ぐ目的でゲンタシン軟膏が使用されることもあります。二次感染を起こしてしまい潰瘍が治らないもしくは悪化してしまう場合では、アクアチムクリーム・軟膏などでの治療を行います。潰瘍より深部に感染がおよび蜂窩織炎や丹毒となった際は抗生物質の点滴や内服の併用を行います。
帯状疱疹ワクチンの種類と特徴
帯状疱疹の発症を予防するワクチンは「乾燥弱毒生水痘ワクチン」と「シングリックス」の2種類があります。ワクチンの種類により、金額や効果に違いがあるため、帯状疱疹の発症を予防するために自分に適したワクチンの接種を行うことがおすすめです。
ワクチン名 | シングリックス | 乾燥弱毒生水痘ワクチン(ビケンなど) |
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タイプ | 不活化ワクチン(サブユニットワクチン) | 生ワクチン(弱毒化ウイルス) |
注入部位 | 皮下注射 | 筋肉注射 |
接種回数 | 2回(2か月間隔) | 1回 |
対象年齢 | 50歳以上 帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の人 | 50歳以上 |
帯状疱疹発症抑制効果 | 50歳以上:97.2% 70歳以上:89.8% | 51.3% |
帯状疱疹後神経痛抑制効果 | 50歳以上:100% 70歳以上:85.5% | 66.5% |
持続効果 | 少なくとも9年以上とされる | 約5年程度 |
副反応 | 接種部位の痛み・腫れ、発熱、倦怠感など(比較的多いが一過性) | 発熱、接種部位の腫れなど(比較的軽度) |
接種費用(自己負担) | 1回22000円前後 | 約7000~9000円程 |
公費助成(自治体により異なる) | 自治体や年齢、収入により異なります | 自治体や年齢、収入により異なります |