表情筋へのボツリヌストキシン注射

表情筋へのボツリヌストキシンの注入は表情筋へ注入をすることで表情を作った際に入る「表情ジワ」をできにくくする注射になります。筋肉の麻痺が出現するに伴い効果が出現します。効果は1~3日程で出現しはじめ、1~2週間でピークを迎え、3~6か月程効果が持続し、効果が切れるに伴い表情ジワがまた入るようになります。

シワには「表情ジワ」と「固定ジワ」があります。表情筋ボツリヌストキシンが効果を発揮するのは「表情ジワ」になります。表情ジワは笑ったり、目を大きく開けたりといった表情を作った際に出てくるシワで、表情を作らない状態に戻ると消失していきます。表情ジワは肌の老化に伴い真皮のコラーゲンやエラスチンなどが減少し、弾力性が低下することで次第に残るようになり、表情を作らなくてもシワがのこるようになった状態のことを「固定ジワ」といい、額、目尻、眉間などで認めるようになります。

ボツリヌストキシンは全てのシワに効果があるものではありません。固定ジワには効果がなく、表情ジワの原因となる筋肉の動きを麻痺させることで表情ジワを入りにくくし、将来的な固定ジワの予防効果が目的となります。

ほうれい線やマリオネットラインはボツリヌストキシンでのアプローチをすると笑いにくさなどが出現する可能性があります。笑ったりしていない自然な表情でほうれい線が目立つ場合は、ヒアルロン酸の注入治療の方が効果的といわれています。ほうれい線へのボツリヌストキシン注射は笑った際に深く入るほうれい線が適応となります。大頬骨筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋という筋肉の運動が関与しますが、ボツリヌストキシンでその筋肉を麻痺させることにより笑った時に強くほうれい線が出るのを抑える効果が期待できますが、笑いにくさや笑っときの左右差が出現してしまう可能性があり、マイルドに効かせて表情の調整を行う目的で頬のマイクロボツリヌストキシン注射を行う場合もあります。

眉間の固定ジワとなった縦ジワはヒアルロン酸の注入を行うと浅くなりますが、血管塞栓を起こす可能性が高い部位であり、表情ジワから固定ジワとなった部位はフラクショナルレーザーや塞栓リスクのほぼない注入剤などで目立ちにくくしていく必要があります。

表情筋ボツリヌストキシンでの表情ジワの代表的な部位と筋肉

額(額の横ジワ):前頭筋

眉間(眉間の縦ジワ):主に皺眉筋。鼻根筋、眉毛下制筋、前頭筋の働きも影響します。

目尻、目の下、目頭(下眼瞼内側のシワ):眼輪筋

鼻根(鼻根部分の横ジワ):主に鼻根筋。皺眉筋の働きも影響することがあります。

鼻背(バニーライン):鼻筋、上唇鼻翼挙筋、眼輪筋が関与します。

顎(顎の梅干しジワ):オトガイ筋

人中(上唇周囲の縦ジワ):口輪筋

額のシワは目を見開いたときや上の方を見ようとした際に出てくる横ジワのことをいいます。額の横ジワは目を見開く癖などで目立つ場合もうありますが、年齢とともに瞼の皮膚がたるみ、上瞼に皮膚が覆いかぶさり眼瞼挙筋だけでは目を開けにくくなった状態(偽性眼瞼下垂)や上眼瞼挙筋や腱が弱くなることで目が開けにくくなった状態(眼瞼下垂)を開けるために、前頭筋の働きで眉毛も含め挙上させて目を開けさせようとする「代償症状」が主な原因となります。前頭筋は眉を持ち上げる唯一の筋肉になります。

シワが出る部位は様々で髪の生え際といった前額部上部に出る場合、額全体に出る場合、眉の直上に出る場合があります。前頭筋へボツリヌストキシンを注入することで動きを抑えてシワを入りにくくしますが、眉直上のシワでは皺眉筋(すうびきん)への注入も併用することで目立ちにくくすることができます。

前頭筋は頭側1/3は頭皮を下方に引く働きがあり、尾側2/3は眉を上に持ち上げるように働きがあります。額のボツリヌストキシンで過去に瞼が重たくなったことがあり、上目への注入を希望する場合や提案を受ける場合があります。上目の注入で瞼が重たくなりにくいのは筋肉の働き方の違いによるものになります。下目への注入では、眼瞼下垂がある場合や瞼のたるみにより眼径が狭くなっている状態のときは前頭筋で眉毛をあげて代償をすることでしっかりと開眼をしようとするために、額の下の方へのボツリヌストキシンでは眉を上に持ち上げられなくなることで代償ができなくなり十分な開眼ができなくなってしまうことがあります。

深い横ジワではなく、小じわへのアプローチで皮内注射であるマイクロボツリヌストキシンを行う場合もあります。

リスク、注意点

額のシワに対して側頭部側へのボツリヌストキシン注入が弱いもしくは行わないと、スポックブローという眉が怒っているかのように吊り上がった眉になってしまうことがあります。治療としては額の外側へのボツリヌストキシンの追加注入となります。

眼瞼下垂もしくは偽性眼瞼下垂がある場合は注入量が多いと額のシワは出なくなっても瞼が開けられなくなり眠そうな目つきになる可能性や瞼の開きは変わらなくても二重の幅に変化が出ることがあります。注入量を減らすことにより瞼の重たさを軽減することはできますが、シワは残る可能性があります。

眉間

眉間への注入は国内でボトックスビスタが承認を取得しており、注入方法についても公開されていますが、鼻根筋と皺眉筋をターゲットとしているため、その注入方法だけでは改善効果が不十分な場合があります。眉間のシワの出方によりどの筋肉がつよく作用しているか異なるといわれており、シワのタイプにより皺眉筋、鼻根筋、眉毛下制筋、前頭筋といった使われる筋肉に違いがあるため、タイプによって注入する部位や注入単位数に若干の違いがあることがあります。

型別の注入方法

1型:眉間中央に長い縦ジワが1本入るタイプになります。皺眉筋へのしっかりとした注入が必要です。

11型:眉間中央に2本の長い縦ジワが入るタイプになります。皺眉筋の外側へも注入が必要です。

スクランチ型:しわが複数できるタイプになります。鼻根筋と皺眉筋への注入が必要です。

オメガ型:眉間の縦ジワに加えて前頭部に横ジワが出るタイプになります。皺眉筋と前頭筋への注入が必要です。

横ジワ型:眉間の横ジワが強いタイプになります。鼻根筋と皺眉筋の内側への注入が必要です。

リスク、副作用

眉間への注入時に上眼瞼挙筋に拡散してしまうと、医原性眼瞼下垂を起こしてしまうことがあります。また、外眼筋へ拡散をすると複視を呈することがあります。眼窩内のため、オビソートの注入は難しく開眼困難時はアイオジピン点眼を使用する場合があります。

眉間のボツリヌストキシン注射はある程度は前頭筋へも作用をしてしまうため、眼瞼下垂とまではいかなくても、前頭筋を使い目の開眼を補っている方では目の開けにくさの自覚や、二重幅の変化などを生じることがあります。

前頭筋の外側が過剰に活動することでスポックブローを呈することがあります。スポックブローは眉外側が吊り上がり怒っているような眉の形になってしまう状態です。皺眉筋へのボツリヌストキシン注射時に注入時の深さを調整をしたとしても同じ部位、近くを走行している前頭筋へ効果が及んでしまい、ボツリヌストキシンの注入をしていない眉外側は影響を受けないため眉外側の前頭筋が相対的に過活動となり生じてしまうことがあります。スポックブローを防ぐため、眉外側に少量のボツリヌストキシンを注入する場合もあり、スポックブロー出現じは眉外側のやや額寄りにボツリヌストキシンを注入します。

目尻、目の下、目頭

目尻への注入は国内でボトックスビスタが承認を取得しており、注入方法についても公開されています。目尻、目の下、目頭ともに眼輪筋の収縮により目尻や目の下、目頭部分に出現するシワに対するボツリヌストキシン注射となります。

目元の固定ジワが目立つ場合は皮膚の弾力性が低下している状態を示すため、フラクショナルレーザーやコラーゲンブースターといわれる注入治療も同時に進めていく必要があります。目尻のシワの出方は様々ですが、全体的に出現するタイプと、外眼角からその上方にでるタイプの2パターンが多く、注入部位や単位数を調整する場合があります。

目頭に出現するシワは、「目尻のボツリヌストキシン注入による代償的過活動で悪化する」ことがあります。また、鼻背部分のバニーラインとも関与することがあるため、目頭へのボツリヌストキシン注入だけでは十分な効果が得られないことがあり、鼻背部分への注入も必要となることがあります。

目の下へのボツリヌストキシンの注入では下瞼がわずかに外反をし白色強膜が露出するため、その作用を利用したものが「たれ目ボツリヌストキシン、たれ目ボトックス」と言われています。

リスク、副作用

弾力性が低下している場合では下眼瞼(目の下)へのボツリヌス注射によって、目の下が強く外反し目の閉じにくさの自覚症状(ドライアイ、流涙など)、目の下の膨らみ(目袋)が悪化することがあります。また、涙袋近くの下眼瞼部への注入により涙袋の消失することもあります。

眼輪筋の外側の目尻のみへのボツリヌストキシンの注入を行うと、内側の収縮が代償的に過活動となり目頭付近のシワが深くなる場合があり、必要に応じて目頭付近への注入を必要とすることがあります。

眼窩内への拡散により複視や眼瞼下垂が生じる場合があります。シワが眼窩内に出現していても、眼窩内への注入はリスクが高いため行うことができません。

下眼瞼内側へのボツリヌストキシン注射では、鼻涙管に薬液が浸潤すると麻痺し涙が目から排出されなくなり涙目となることがあります。また、過量投与となると涙袋の消失やシワがなくなることでの表情の不自然さ、目の下の膨らみである目袋の悪化や下瞼の外反により目の閉じにくさなども生じる場合があります。

鼻根、鼻背

鼻根部分の横ジワは鼻根筋が主な筋肉になりますが、皺眉筋の影響も受け強いシワが出ることがあります。鼻根筋への注入で改善が乏しい場合は皺眉筋への注入も行うとより効果が実感できることがあります。

表情を作らない場合でも鼻根部分にシワが刻まれ、固定ジワとなってしまっている場合はボツリヌストキシンのみでの治療効果は乏しく、フラクショナルやコラーゲンブースターなどの注入治療などが適応となります。

鼻背部分に内眼角から鼻背にかけて斜めにできるシワをバニーラインといい、バニーラインは鼻背部分にある鼻筋だけでなく、上唇鼻翼挙筋や眼輪筋なども作用し出現します。目尻や眉間のボツリヌストキシンで代償的に過活動となりバニーラインがより強調されることもあります。上唇鼻翼挙筋へのボツリヌストキシンの注入にはガミースマイル時の注入方法や鼻背のやや外側への注入などがありますが、上唇鼻翼挙筋へ強く効果を出してしまうと笑いにくさや人中が伸びた印象が出てしまう可能性があるため注入部位には効果や他の筋肉への作用を考えて注入を行う必要があります。

顎にできるシワは見た目から梅干しジワともよばれ、オトガイ筋の過緊張によって生じます。原因としては下顎の後退や低形成、歯列などが原因となることが多く、年齢とともに下顎の容積が骨萎縮により減少することで悪化するようになるともいわれています。

オトガイ筋は下顎骨からはじまりオトガイの皮膚に付着する筋肉で顎や下唇の唯一の「挙筋」で、上に持ち上げる働きがあります。過活動状態となると、顎が短くなりシワが目立つようになります。

顎のボツリヌストキシンによってオトガイ筋の緊張をとることで自然に顎が出るようになり、シワもよりにくくなります。下顎の低形成に対してヒアルロン酸などの注入療法を併用することでより、より効果的になります。

副作用、リスク

注入単位数が多くなると下唇を上げにくくなるため、口を閉じにくくなった結果、上唇を下げて人中が間延びして見えるようになることがあります。

オトガイ筋の緊張が強い場合や注入時のムラがある場合では部分的な効果のムラのため、シワが残る場合があり、追加投与を要する場合があります。

下唇下制筋や口輪筋に拡散してしまうと笑った時の表情のぎこちなさや左右差、しゃべりにくさや飲み込み難さが出現することがあります。

人中

上唇の縦ジワは皮膚が薄いため口輪筋の収縮により加齢とともに目立つシワです。皮膚の萎縮も伴うため、ボツリヌストキシンのみでの改善が難しいことが多く、ヒアルロン酸などの注入との併用がより効果的となります。

ボツリヌストキシンのみで改善をしようと注入をすると使用する単位数が多くなることで口輪筋へ強く作用してしまったり、他の筋肉へも浸潤してしまうことでストローの吸いにくさや口の動かしにくさ、しゃべりにくさなどが出現する可能性があります。