咬筋へのボツリヌストキシン注射
エラボツリヌストキシン注射やボトックスを使用した場合エラボトックスともいわれます。咬筋にボツリヌストキシンを注射することで筋肉を委縮させ、小顔効果や食いしばりの軽減効果が期待できる施術になります。
ボツリヌストキシンにより神経筋接合部のアセチルコリン分泌を阻害することで筋肉を麻痺させ、筋肉を使えない状態にする「廃用」による筋萎縮効果によって筋肉を薄くする施術となります。
咬筋は側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋とともに「咀嚼筋」を構成しています。咬筋は下顎の外側にあり、歯をかみ合わせて食物を嚙み砕く働きがあります。咬筋は2層からなり、その走行は異なります。浅層は起始部が「側頭骨と頬骨からなる頬骨弓の前2/3」、停止部が「下顎骨咬筋粗面下部」、深層は起始部が「頬骨弓の後ろ1/3」、停止部が「顎骨咬筋粗面上部」2方向の筋線維が集まる下顎角外面が最も厚くなります。
効果の出方
小顔効果
筋肉の麻痺により小顔効果で出現するのではなく、「廃用」による萎縮により小顔効果が出現します。注射から2~4週間で筋肉の萎縮効果を実感することができ、2~3か月経過したところで萎縮効果は最大となり、3~4か月経過したところで筋肉が収縮するようになり、4か月から長いと1年程かけて筋肉量は回復していきます。効果を実感するタイミングや回復の速さは生活習慣なども含めて個人差が大きいといわれています。食いしばり癖、夜間の歯ぎしり癖、ガムやスルメなどを習慣的に噛む場合では回復は早まり、効果の持続時間は短くなります。
筋肉の萎縮が戻りきる前に繰り返し注入を行うことで萎縮効果を持続させ、さらに委縮させる効果も期待できます。効果的な状態を維持する場合は効き方にもよりますが、3~12か月ごとに繰り返して継続的な注入を行います。さらなる萎縮効果を期待する場合は1回あたりの単位数を増やしたり、短期間(3か月毎)の繰り返しでの注入となります。
歯ぎしり、食いしばり
歯ぎしり、食いしばりに対してのボツリヌストキシンの注入の場合は、萎縮効果ではなく筋肉の麻痺が重要となるため、麻痺が回復すると症状が再燃してしまうため、萎縮効果は残存していても痛みが出現することがあり、その際は3~4か月毎の治療が必要となります。また、咬筋だけでなく下顎骨を挙上し後方に引く作用のある「側頭筋」への注入も併用するとより効果的になります。
リスク、注意点
咬筋へのボツリヌストキシン注入により、以下のようなことが生じる可能性があります。
笑顔や表情を作った際の左右差
咬筋の前方(口側)には「笑筋」という口角を上外側へ動かす筋肉があります。ボツリヌストキシンが薬剤の拡散により片側の笑筋に効いてしまうと効いた側の笑筋が動かなくなり、左右非対称の笑顔となることがあります。頬骨周囲の「大頬骨筋」に拡散してしまうと笑顔時に口角が上がらなくなってしまうことがあります。
これらの症状が出現した際、時間経過とともに自然と改善していきますが、対象となる筋肉へ「オビソートの注入」や口を開けながら「いー」と言い笑筋を使う運動を行うことで麻痺した筋肉の回復を促す方法があります。
効果が実感できない
下顎骨の発達が強いものの、咬筋自体の容量が小さい場合(発達が弱い場合)はボツリヌストキシン注射による小顔効果はあまり期待できません。また、頬の脂肪量が多い場合は咬筋の委縮効果のみでは小顔効果が実感できない場合があり、脂肪溶解注射や脂肪吸引などとの併用が必要となります。
頬のコケやたるみ
頬の脂肪量が少ない場合やたるみが強い場合、頬骨弓付近といった咬筋の上部へボツリヌストキシンを注入した場合や下部への注入でも拡散した場合に頬骨弓がより目立ってしまうことで頬のコケが目立つようになってしまうことがあります。また、咬筋が発達していることで、本来であれば口横やフェイスラインへ皮膚や脂肪がたるんでいたものが「咬筋により引っ張り上げられていてマスクされた状態」だったものが、萎縮することで引っ張り上げられなくなりたるみが目立つようになってしまうことがあります。
咬筋下部への注入でも、皮膚や脂肪の下垂があるとフェイスラインのもたつきや頬のコケが出現することもあるため、エラボツリヌストキシンによる小顔効果を希望する場合、最初は控えめの単位数で様子をみていくのが安全です。頬のコケが出現した場合、個人差はありますが自然に回復するのには半年以上要することもあります。
これらの症状が出現した際、頬骨下へのヒアルロン酸などのフィラー注入やガムやするめなどを毎日咀嚼をし咬筋の回復を促す方法があります。
パラドキシカルバルジング(咀嚼時に咬筋の一部が膨らみ目立つ状態)
パラドキシカルバルジングはエラボツリヌストキシンを注入したあと1週間以内に、食いしばったときに注入前よりも一部分がポコッと目立ってしまうことをいいます。ボツリヌストキシンが作用した咬筋深層は筋収縮が麻痺しているものの、作用していない咬筋浅層の筋肉が代償的に過活動となり生じる現象といわれています。咬筋の浅層が元々強く発達している場合、ボツリヌストキシンの注射時に注射カ所数が少ない場合、注入量のムラのため拡散にムラが生じる場合で発生することがあります。
2週間ほどで自然と改善することが多いため急いで追加での注入(リタッチ)をせずに様子をみる場合が多いです。改善しない場合は10単位程を過活動部位へ注入することで早く改善します。