赤痢アメーバ

概要

赤痢アメーバは人に病原性をもつ腸管寄生性原虫の1種です。感染は衛生環境による影響を受け、発展途上国に広く分布をしていますが、先進国では男性同性愛者(MSM)間で流行しているといわれています。肛門を直接舐めたり、肛門に触れた手で洗わずに口に触れるといったことによる「糞口感染」、シストに汚染された飲食物を食べることでの感染「経口感染」が原因となります。

消化管に入り込んだシストは小腸で脱シストし栄養型となり大腸へと到達します。栄養型は腸管内で分裂を繰り返し、大腸粘膜に潰瘍性病変をつくりアメーバ性大腸炎、血行播種をして腸管外にも病変を形成し、肝膿瘍や極めて稀だが心臓や肺、脳、皮膚などに病変をつくることがあります。

潜伏期間

感染から症状が出るまで2~4週間(無症候感染が多く、発症まで数年かかる場合もあるため感染機会ははっきりとしないことが多いです)

検査可能時期

症状出現時

感染部位

消化管(消化管から肝臓などに感染部位が拡大することがあります)

感染経路

感染者の糞便中に存在するシストの経口感染で感染をします。

肛門を直接舐めたり、肛門に触れた手で洗わずに口に触れるといったことによる「糞口感染」、汚染された食べ物(ウイルスに汚染された飲食物など)を食べることでの感染「経口感染」が原因となります。性行為中にシストに触れ、付着した手や体を洗わずに口に触れたりすると感染をするため、膣・口腔・肛門性交でも感染を引き起こします。

症状

口から「シスト」といわれる状態の原虫が体内に侵入し、胃を通過し小腸で脱シストをし「栄養型」となり分裂を繰り返し大腸へ到達します。栄養型の原虫が大腸で病変を形成し発症をします。

感染後の90%近くは無症候性持続感染と言われる状態で、盲腸に病変が限局するため症状はありませんが、腸管内で栄養型がシストになり糞便中に排出されるため、周囲へ感染の可能性がある状態となります。大腸炎の発症は潜伏期間が2~4週間といわれますが、数か月から数年かかる場合もあります。大腸炎の症状はイチゴゼリー状の粘血便や下腹部痛、長引く下痢や血便などで増悪と寛解を繰り返します。下部消化管内視鏡検査など原因精査中に診断されることがあります。まれではありますが、潰瘍部が穿孔し腹膜炎を発症することがあります。

アメーバ性肝膿瘍は腸管に感染した赤痢アメーバが血行性に肝臓に感染することで発症をします。発熱、上腹部痛、肝腫大、盗汗などの症状が出現しますが、初期は長引く発熱以外の症状が乏しいため、風邪と診断されてしまうことがあり診断までに時間を要することがあります。病期の進行とともに、右季肋部痛を自覚するようになり、不明熱や腹痛の精査目的でのCT検査をきっかけに診断されることが多いです。

性感染症においては性的パートナーも同時に治療する必要があり、無症候性キャリアも多いため再発や感染拡大の原因となりえます。

検査および治療

感染を防ぐ予防接種はありません。

検査は糞便を用いる糞便直接検鏡検査、イムノクロマト法による糞便迅速抗原検査、核酸増幅検査(PCR法)による病原体の遺伝子検出になります。血液を用いる血中抗体検査、外科的治療で採取された検体や内視鏡で採取された検体からの病理検査があります。

糞便直接検鏡検査は検査を行う技能により精度が左右され、陰性であったとしても感染を否定することができません。海外では診断に用いられない検査となります。

糞便迅速抗原検査は栄養型の表面タンパクを検出する方法のため、症状の弱いもしくは無症状の場合は糞便中にはシストがメインとなり検出できないことが多いといわれています。

血中抗体検査は検査に使用する試薬が製造中止となったため、検査を行うことができなくなってしまいました。

PCR検査は保険適応外の検査となりますが、感度特異度ともに高い検査方法となりますが検査施設が限られています。

治療はメトロニダゾール、パロモマイシンが用いられます。

組織内や腸管内存在する「栄養体」と、腸管内に存在する「シスト」への治療で治療方法を使い分けます。

栄養体に対してはメトロニダゾールが用いられ、症状により内服や点滴での治療を行います。

メトロニダゾールでの栄養体の治療後、後療法といわれる腸管内のシスト駆除のため、パロモマイシンの内服を行い根治療法を行います。