炭酸ガスレーザーによるアブレーション治療
炭酸ガスレーザーによるアブレーションとは?
炭酸ガスレーザーは、10600nmの波長を持つレーザーで、水分に強く吸収される特性があります。皮膚に照射すると、水分の蒸散作用によって瞬間的に組織を蒸発させることができるため、皮膚表面を削る(アブレーション)目的で使用されます。この特性を利用し、瘢痕組織を除去することで、肌の再生を促進する治療法です。
TCAクロスと比較されることが多い治療法となります。TCAクロスについての詳細はこちらをご参照ください。
アブレーションのニキビ跡へ効果を発揮する機序
アブレーションのメカニズムは以下の3つの過程から成り立ちます。
①瘢痕組織の蒸散
炭酸ガスレーザーは水分に吸収されやすい特性を持つため、照射すると皮膚内の水分が急激に蒸発すると同時に瘢痕組織を削ることができます。TCAクロスによるたんぱく変性と異なり、直接削る深さを確認しながら治療が可能なため正確に瘢痕組織の除去が可能となります。
②皮膚の創傷治癒反応(リモデリング)
皮膚が削られ傷つくことで、傷を治そうとする創傷治癒過程(炎症期・増殖期・成熟期)により、線維芽細胞が活性化されコラーゲン生成の促進が起こりクレーターの陥凹部分が徐々に持ち上がります。最終的に新しい皮膚組織の再構築が促されます。
増殖期
- 線維芽細胞が活性化し、コラーゲンが生成されます
- 血管内皮細胞の遊走により血管新生が促進され、毛細血管がつくられます
- ケラチノサイトが遊走し、表皮の再上皮化が進みます
成熟期
- コラーゲンの再構築がすすみます
- 脆弱だった毛細血管が血管網を形成します
増殖期、成熟期では組織内の毛細血管が豊富なため赤みを帯びます。赤みが残ることでダウンタイムと認識をされますがその間コラーゲンの生成は進むことでクレーターが徐々に持ち上がっていきます。成熟期が進むことで赤みも軽減、消失していきます。
③皮膚の収縮と再上皮化
炭酸ガスレーザーによるアブレーション後、約1~2週間の間に基底細胞の増殖とケラチノサイトの遊走による再上皮化を経て、新しい皮膚へと置き換わります。TCAクロスとの違いは痂疲形成がないため、治療直後から軟膏などを使用した湿潤療法を行う必要があります。
炭酸ガスレーザーにより真皮層に熱が加わることでタンパク質が収縮し、クレーターの輪郭が引き締まり、瘢痕の縮小効果が期待されますが、多くの場合クレーターの瘢痕組織のエッジ(縁)を削るため、陥凹が持ち上がってもクレーターが大きくなる場合があります。
炭酸ガスレーザーによるアブレーションの適応
- アイスピック型瘢痕(Icepick Scars):深く鋭い陥凹を伴う瘢痕
- ボックス型瘢痕(Boxcar Scars):角ばった陥凹のある瘢痕
- 複数の深い瘢痕が混在する皮膚
ローリング型瘢痕に対する効果は乏しく、サブシジョンとの併用が必要となります。
治療の頻度と期間
- 通常、4週間以上の間隔で複数回の治療を行います。肌への侵襲が強い治療となるため、創傷治癒過程がある程度落ち着くまで空ける場合が多いです。削る深さにより創傷治癒過程に要する期間には違いが出ます。
- 1度の治療でも十分な効果を発揮しますが、複数回行った後の方がより効果が実感できるようになります。
施術の流れ
線維芽細胞の活性化の目的でトレチノインの塗布を施術前後に併用する方法があります。トレチノインを併用する場合は若干の違いがあるためご注意ください。
① 施術前の準備
- メイクや日焼け止め、皮脂をクレンジングで洗い落とします。
- 施術直前に消毒を行います。施術は痛みが強いため、表面麻酔や局所麻酔を行う場合があります。
② 炭酸ガスレーザーによるアブレーション
- アイスピック型もしくはボックスカー型のニキビ跡の瘢痕組織のエッジを炭酸ガスレーザーを照射し蒸散させて削ります。
- 蒸散させた部位からは滲出液が出てじゅくじゅくとした状態となります。軟膏での湿潤療法を行います。
- 施術後からヒリヒリとした痛みは出現し、翌日ぐらいまで続きます。
③ 施術後の経過
- 施術部位は直後から滲出液が出てじゅくじゅくとした状態になります。傷が乾燥してしまうとかさぶたができてしまい、細胞の増殖や活性化、遊走が阻害されてしまうと施術部位の治りが悪くなるだけでなく、コラーゲン生成が十分にされずにクレーターが悪化してしまう可能性があります。軟膏による湿潤療法を再上皮化がおわる7~10日間程行う必要があります。かさぶたが出来てしまった場合は無理に剥がそうとはせず、かさぶたの上から軟膏を塗りケアを続けます。
- 創傷治癒過程により施術部位は赤みを帯びた状態となります。傷が深い程創傷治癒過程は時間を要し、赤みが長引きます。数週間から半年以上赤身が続く場合があります。
- 炭酸ガスレーザーによる削り取る深さが深く、底面に表皮付属器官(毛穴など)がない状態となると「成熟瘢痕」化し、いわゆる白い傷跡になる可能性があります。
- 3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は数か月程続くといわれています。
期待される結果とリスク
効果と限界
ピンポイントの深い瘢痕(アイスピック型、ボックスカー型)に対して効果的が期待されます
TCAクロスと比較し、瘢痕組織の除去を正確に行うことが可能ですが、TCAクロスと比較し費用が高額になることが多いです
炭酸ガスレーザーでどの程度削るかの調整には習熟した医師による診察と治療が必要となります
クレーターの底面が白色の瘢痕の場合や、アブレーションで過度に広範囲の組織を削りとってしまった場合などでは陥凹が持ち上がっても「成熟瘢痕」化することで、白い傷跡として残る可能性があります
1度の治療でも十分な効果を発揮することがありますが、複数回治療が必要となる場合があります
施術後の注意点と副作用、リスク
長いダウンタイム
- 施術部位を7~10日間、再上皮化するまでは適切な湿潤療法を行う必要があります。ケアを怠ると期待される効果が得られなくなるだけでなく、クレーターの悪化や色素沈着などのリスクも高まります。再上皮化後は日焼けや摩擦は極力避けるようケアしていく必要があります。
- 再上皮化直後は蒸散により組織が削り取られた状態のため、陥凹が悪化し赤みを帯びた状態となります。3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は治療後数か月程続くといわれています。赤みは数週間程で徐々に改善していきますが、削る深さが深い場合などの理由で長いと半年以上つづくことがあります。
副作用、リスク
- 強い炎症による炎症後色素沈着
- 色素脱出(メラノサイトが機能しなくなることによる白斑と成熟瘢痕による白色の瘢痕組織があります。元々成熟瘢痕のため、白く抜けていた状態のものが気になってくる場合もあります)
- クレーターの悪化(より深くなってしまう)、拡大(クレーターが大きくなってしまう)
- 過剰な瘢痕形成(肥厚性瘢痕やケロイド)
- 赤みの長期化や残存(治療部位の毛細血管網が目立ってしまう)
- 感染(表在性細菌、真菌など) など
まとめ
炭酸ガスレーザーを用いたアブレーション治療は、ニキビ跡の特にアイスピック型やボックスカー型のクレーター改善に効果的な方法の一つです。皮膚を削ることで瘢痕組織を削り、線維芽細胞を刺激し、新しいコラーゲンの生成を促すことで、萎縮性瘢痕の陥凹部分を持ち上げ、肌の質感を改善します。
1回の施術で十分な治療効果を発揮することもありますが、複数回の治療が必要となることが多いです。また、施術後の適切なアフターケアが重要であり、施術後の湿潤療法と日焼け対策や保湿を徹底する必要があります。他の施術と比べると、ダウンタイムが長く、リスクが高い治療となります。
施術に習熟した医師による治療が効果を最大化し、リスクを可能な限り抑えるのに重要な要素の1つとなります。
TCAクロスと炭酸ガスレーザーによるアブレーションの比較
TCAクロスと炭酸ガスレーザーによる治療の比較は施術者に技量による要素も大きいため、単純に比較をすることはできませんが一般的には炭酸ガスレーザーのアブレーションの方が優れているといわれています。
炭酸ガスレーザーによるアブレーションは正確に瘢痕組織を削ることが可能な施術となります。一方、TCAクロスはTCAが皮膚表面から深達することでタンパク質を凝固変性させるため、瘢痕組織を全て凝固しきれない可能性や真皮下の深達度がはっきりと分からない点からどの程度の効果や副作用のリスクを伴うかが分かりにくく、炭酸ガスレーザーによる施術が取って代わっています。
TCAクロスは古くから行われてきた深層ピーリングの1種となり多くの臨床経験があります。上記の理由から炭酸ガスレーザーを行うクリニックが増えていますが、TCAクロスの治療が根強い理由としては費用面で炭酸ガスレーザーと比べ安価にできる点が挙げられます。
炭酸ガスレーザーによるアブレーション、TCAクロスともに治療に習熟した医師による治療が重要になります。
TCAクロス | アブレーション | |
対象となる瘢痕 | 主にアイスピック型 小さめのボックスカー型も適応 | 主にボックスカー型 アイスピック型も可能 |
機序 | TCAによるタンパク質の凝固変性による剥離と線維芽細胞活性化 | 瘢痕組織の蒸散と熱作用による線維芽細胞活性化 |
瘢痕組織の除去 | 不十分なことが多い | 緻密に行うことができる |
施術後の経過 | 痂疲(かさぶた)が5~7日続き、再上皮化し自然にはがれる | 再上皮化までの7~10日湿潤療法 |
治療回数 | 3~6回程度 | 1~3回で効果が実感しやすい |
費用 | 比較的安価 | 高額 |
その他 | 大きなボックスカー型やローリング型には不向き | ローリング型には不向き |
注意点 | 濃度や反応時間、塗布量など施術者による違いが出やすい かさぶた後はメイク可能 | 過度に削りすぎると瘢痕化する可能性がある 湿潤療法のケアはとても大事 |
実経験でのはなし
本文章を作成しました、両治療に携わっていました石井の個人的な意見にはなりますが、経験上陥凹を持ち上げる効果は若干TCAクロスの方が高いという印象を持っていました。同時に赤みが残る期間についてもTCAクロスの方が長い印象でした。濃度選択など様々な要因があったかと思います。
両治療とも強力な改善効果が期待できますが、作用機序の違いだけでなく施術後のケアの仕方にも大きな違いがあるため、受ける方との相性も大きくある印象です。特にTCAクロスではかさぶたとなった後メイクが可能となるため、比較的好まれる印象がありました。
私の個人的な治療のおすすめの組み立て方になりますが、線維芽細胞の活性化を目的として深層ピーリングまでいくかいかない程度のTCAクロスを3回程行いクレーターの陥凹を改善させ、線維芽細胞の活性化を促した後に、炭酸ガスレーザーによるアブレーションでエッジを削り取り瘢痕組織をしっかりと除去する治療の組み合わせが費用面や効果を考えた上で効率良く治療が進められるかと思っています。
当然ですが、両施術を検討される際習熟している医師による治療が重要となります。
参照
Georgios Kravvas et al. A systematic review of treatments for acne scarring. Part 1: Non-energy-based techniques. Scars Burn Heal. 2017 Mar 30:3:2059513117695312.
Georgios Kravvas et al. A systematic review of treatments for acne scarring. Part 2: Energy-based techniques. Scars Burn Heal. 2018 Aug 16:4:2059513118793420
Teo Soleymani et al. A Practical Approach to Chemical Peels: A Review of Fundamentals and Step-by-step Algorithmic Protocol for Treatment. J Clin Aesthet Dermatol. 2018;11(8):21–28
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