胃腸炎
胃腸炎について
胃腸炎は、胃や腸に炎症が生じる病気の総称のことをいいます。主に感染性(ウイルスや細菌、寄生虫など)と非感染性(薬剤、アルコール、ストレス、自己免疫など)に分類されます。症状は下痢、嘔吐、腹痛、発熱など多岐にわたり、重症化すると脱水症状や電解質異常を引き起こす可能性もあります。
原因
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は、主にウイルスや細菌が感染することで発症します。寄生虫が原因となることもあります。
ウイルス性胃腸炎
- ノロウイルス:冬季に流行し、感染力が非常に強い。潜伏期間は1~2日。嘔吐・下痢・発熱が主症状。
- ロタウイルス:乳幼児に多く見られ、激しい下痢と脱水を起こしやすい。ワクチンによる予防が可能。
- アデノウイルス、アストロウイルスなども原因となることがある。
細菌性胃腸炎
- カンピロバクター:生肉(特に鶏肉)から感染。潜伏期間は2~5日。下痢、腹痛、発熱が主な症状。
- サルモネラ菌:鶏卵や加熱不十分な食品が原因。下痢、腹痛、発熱、嘔吐。
- 腸管出血性大腸菌(O157など):血便や溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こすことがある。
- その他:赤痢菌、ビブリオ、エルシニア、クロストリジオイデス・ディフィシルなど。
寄生虫性胃腸炎
- ジアルジア、アメーバ赤痢など、海外渡航歴のある人や衛生状態の悪い環境にいた人に多く見られる。
2. 非感染性胃腸炎
- 薬剤性:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や抗生物質の副作用。
- アルコール性:大量の飲酒による胃粘膜障害。
- ストレス性:心身のストレスが胃腸機能に影響。
- アレルギー性:特定の食物に対するアレルギー反応。
- 自己免疫性:自己免疫疾患により消化管に炎症が生じることがある(例:クローン病)。
症状
主な症状は以下になります。
- 下痢
- 嘔吐・吐き気
- 腹痛
- 発熱
- 食欲不振
- 倦怠感
- 脱水症状(口渇、尿量減少、皮膚の乾燥など)
肉眼的血便を起こす病原菌
細菌では、サルモネラ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O-157)、赤痢菌、腸チフス、パラチフス など
ウイルスでは、サイトメガロウイルス(免疫不全やステロイド、抗がん剤、免疫抑制剤の使用など免疫が低下している状態) など
原虫では、赤痢アメーバ など
が血便を起こす原因となりえます。
白色の下痢便
コレラ菌、ロタウイルスでは白色の下痢便をおこすことがあります。
検査
診察により、炎症の程度や脱水の状態の評価のために血液検査をおこなうことがあります。細菌感染の場合では、CRPおよび白血球数の上昇を認めます。
便検査
便検体では下記の検査を原因を同定するために行うことがあります。
ノロウイルス抗原定性検査:便(直腸便という肛門内に綿棒を入れて採取した便)を用いた検査になります。ノロウイルスの抗原を20分程で検出することができます。3歳未満もしくは65歳以上では保険適応となります。それ以外の方では自費検査となります。
ロタウイルス抗原定性検査:便(直腸便という肛門内に綿棒を入れて採取した便)を用いた検査になります。ロタウイルスの抗原を20分程で検出することができます。保険適応での検査は特に年齢制限はありません。
細菌培養検査:原因となる細菌を培養し検出することができます。検査結果が出るまで数日要します。
ベロ毒素検査:腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素を検出する検査となるため、血便を認める際に検査を行います。
CDトキシン検査:直近3ヶ月以内に抗生物質の内服がある場合は、クロストリジオイデス・ディフィシルによる偽膜性腸炎の可能性があるため、便(直腸便という肛門内に綿棒を入れて採取した便)を用いた検査を行うこともあります。
治療法
胃腸炎の治療は原因により異なりますが、対症療法といわれる症状に対して症状を和らげる治療で軽快していくことが多く、発症してから2〜7日位で治ります。
症状 | 薬 |
胃の痛みが強い | 制酸薬(ファモチジンなど)、胃粘膜保護薬(レバミピドやセルベックスなど)で胃を保護する薬の内服 痛み止めのうち胃粘膜を傷つけないアセトアミノフェンの内服 |
嘔吐・吐き気が強い | 嘔気止め(ドンペリドン、メトクロプラミドなど)の内服 |
腹痛が強い | 腸の過剰な動きを抑える薬(ブチルスコポラミン)の内服 痛み止めのうち胃粘膜を傷つけないアセトアミノフェンの内服 |
下痢が強い | 下痢止めは使用しません。 腸内細菌を整える整腸剤の内服 |
上記に加え、漢方薬(五苓散、柴胡桂枝湯など)を併用することがあります。
五苓散:水分を摂るとすぐ吐いてしまう、下痢、嘔吐、喉の渇きがある際に効果が期待できます。
半夏瀉心湯:みぞおちのむかつき、吐き気、下痢がある際に効果が期待できます。
細菌(病原性大腸菌、カンピロバクター 、サルモネラなどであっても、抗菌薬は不要であることが多いです)が原因の場合でも症状が軽い場合や自然軽快が見込まれる場合(症状のピークを過ぎているなど)は抗生物質での治療を行ず対症療法で経過をみていきます。
炎症が強い場合や、症状が重い場合、重症化リスクのある場合(高齢者、免疫抑制、妊婦)は抗生物質の内服が必要な場合があります。細菌感染を疑う症状としては以下が挙げられます。
下痢便の回数が多い(1日4回以上)
腹痛が強い
血便がある
高熱(悪寒を伴う)
ニューキノロン系(シプロフロキサシン 1回400mg 1日2回 経口 3日間、レボフロキサシン 1回500mg 1日1回 経口 3日間)の抗生物質の内服治療が検討されます。カンピロバクターが疑われる場合ではアジスロマイシン 1回500mg 1日1回を 3 日間が検討されます。