アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったり(寛解と増悪)を繰り返す(反復性)、慢性的な経過(乳児では2カ月以上、その他では6カ月以上)をたどる皮膚の病気です。多くはアトピー素因を有するといわれています。
アトピー性皮膚炎の原因はアトピー素因と皮膚のバリア機能の低下を背景にし、様々な要因が複合的に関与した状態といわれています。
アトピー素因とは?
家族歴もしくは既往歴に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、もしくは複数ある
IgE 抗体を産生しやすい素因
症状の特徴
アトピー性皮膚炎は左右対称に湿疹が出現をし、年齢により起きやすい部位に違いがあるといわれています。
乳児期:頭、顔(額や目・口・耳のまわりなど)からはじまり、体幹、四肢にも出現します。
幼小児期:首まわり、四肢の屈曲部(肘や膝などの関節の柔らかい部分)
思春期・成人期:上半身(顔、首まわり、胸、背中)に皮疹が強く出やすいといわれています
乳幼児期から発症し、成長とともに改善することもありますが、大人になっても症状が続く場合もあります。頻度は少ないですが、思春期や成人になってから発症することもあります。
苔癬化と炎症後色素沈着
アトピー性皮膚炎は常にかゆみを伴います。「かゆいため掻いてしまい、さらにかゆくなってしまう」という悪循環を起こし、症状が悪化してしまいます。長い間掻き続けることで皮膚が硬く厚くなる、苔癬化を起こしてしまいます。また、炎症が長引くことで炎症後色素沈着を起こしてしまい、色調も黒ずんでしまいます。アトピー性皮膚炎の治療を行い、症状が改善しても苔癬化、色素沈着の軽快には長い年月を要することが多いです。また、長期にわたり色素沈着が残っている場合は慢性的な炎症が肌に残存していることが多く、その原因であるアトピー性皮膚炎の治療を行う必要があります。
診断
アトピー性皮膚炎の診断は、以下の3つの基準に基づいて行われます。
- かゆみがあること
- 特徴的な湿疹の分布:左右対称性で、年齢によって異なる部位に出現
- 慢性・反復性の経過:症状が2ヶ月以上(乳児期)または6ヶ月以上(その他)続く場合を慢性といいます。
これらの基準を満たし、他の皮膚疾患が除外された場合に、アトピー性皮膚炎と診断されます。
似たような症状を示す皮膚の病気には下記があります。
皮脂欠乏性湿疹、脂漏性皮膚炎、手湿疹、接触皮膚炎、疥癬、皮膚リンパ腫など
治療
アトピー性皮膚炎の治療は以下が重要となります。
① 薬物療法
② スキンケア
③ 悪化因子の除去
薬物療法には外用薬、内服薬、注射薬があります。重症の場合では、シクロスポリン、バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブなどの免疫用製剤の内服治療(全身治療)やオマリズマブ(一般名:ゾレア)といった生物学的製剤を使用することもあり、注射薬については使用することができる施設が限られています。
外用薬
外用薬には「保湿剤」「ステロイド」「プロトピック、コレクチム、モイゼルト」があります。保湿剤は湿疹の症状が出ているとき(急性期)、落ち着いているとき(寛解期)でも重要な治療となります。
治療の方法にはプロアクティブ療法とリアクティブ療法があります。プロアクティブ療法は、再燃を繰り返す湿疹をステロイド外用薬で改善させた後に、保湿外用薬だけでなくステロイド外用薬やプロトピック、コレクチム、モイゼルトを湿疹のあった部位に塗り続け、徐々に塗る間隔を減らしていきながら継続をしていく、寛解状態を維持する治療法のことをいいます。プロアクティブ療法は湿疹が何度も繰りやすい方に適しています。
リアクティブ療法は、湿疹が再燃した再にステロイド外用薬を湿疹の部位に塗布し改善させコントロールする治療のことをいいます。時々湿疹が出るような軽症の方に適しています。
保湿剤
保湿剤は症状があるときでも、症状が落ち着いた後(寛解後)でも必要となります。乾燥により肌のバリア機能が低下してしまい、肌状態が悪化しアトピー性皮膚炎の悪化や再発を起こしやすくなるため、重要な治療となります。
ステロイド
ステロイド外用薬は炎症を落ち着かせるために初期から使用されます。ステロイドの塗り薬は、強さによってⅠ~Ⅴ群に分類されています。
Ⅰ:ストロンゲスト・・・最も強い
Ⅱ:ベリーストロング
Ⅲ:ストロング
Ⅳ:マイルド/メディウム
Ⅴ:ウイーク・・・最も弱い
ステロイド外用薬の一覧
ストロンゲスト(Ⅰ群)
0.05% クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベート ®)
0.05% ジフロラゾン酢酸エステル(ダイアコート ®)
ベリーストロング(Ⅱ群)
0.1% モメタゾンフランカルボン酸エステル(フルメタ ®)
0.05% ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(アンテベート ®)
0.05% フルオシノニド(トプシム ®)
0.064% ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(リンデロン DP®)
0.05% ジフルプレドナート(マイザー ®)
0.1% アムシノニド(ビスダーム ®)
0.1% ジフルコルトロン吉草酸エステル(テクスメテン ®,ネリゾナ ®)
0.1% 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン(パンデル ®)
ストロング(Ⅲ群)
0.3% デプロドンプロピオン酸エステル(エクラー ®)
0.1% デキサメタゾンプロピオン酸エステル(メサデルム ®)
0.12% デキサメタゾン吉草酸エステル(ボアラ ®,ザルックス ®)
0.12% ベタメタゾン吉草酸エステル(ベトネベート ®,リンデロン V®)
0.025% フルオシノロンアセトニド(フルコート ®)
ミディアム(Ⅳ群)
0.3% プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(リドメックス ®)
0.1% トリアムシノロンアセトニド(レダコート ®)
0.1% アルクロメタゾンプロピオン酸エステル(アルメタ ®)
0.05% クロベタゾン酪酸エステル(キンダベート ®)
0.1% ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ロコイド ®)
0.1% デキサメタゾン(グリメサゾン ®,オイラゾン ®)
ウィーク(Ⅴ群)
0.5% プレドニゾロン(プレドニゾロン ®)
顔面、首、胸部、腋窩、陰部には「Ⅳ マイルド/メディウム」
四肢や体幹には「Ⅲ ストロング~Ⅱ ベリーストロング」
掌蹠(手のひら、足のひら)には「Ⅱ ベリーストロング~Ⅰ ストロンゲスト」
が主に使用されます。長期の使用で皮膚萎縮や毛細血管拡張、多毛などの副作用が起こることがあります。顔面への長期の使用は、酒さ様皮膚炎を起こす可能性があります。また、瞼周囲の使用で眼圧が亢進し緑内障のリスクがあり注意が必要です。
プロトピック、コレクチム、モイゼルト
アトピー性皮膚炎の治療に用いられる非ステロイドの外用薬となります。ステロイドでのステロイド軟膏と並び、抗炎症作用を持つ薬です。主に顔や首に使用されることが多く、症状や皮膚の状態によって使い分け、効果や副作用を見ながら調整します。ステロイドで症状を寛解させてから使用されることが多いです。
特徴項目 | プロトピック(タクロリムス) | コレクチム(デルゴシチニブ) | モイゼルト(ジファミラスト) |
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分類 | カルシニューリン阻害薬(外用) | JAK阻害薬(外用) | PDE4阻害薬(外用) |
作用機序 | T細胞の活性を抑制し、T細胞が産生する炎症性サイトカインを抑えることで症状を抑えます | サイトカインシグナルを遮断することで、炎症や痒みの原因を抑えます | PDE4を阻害し、cAMPを上昇させ、炎症性サイトカインの産生を抑えることで効果を発揮します。 |
使用年齢 | 2歳以上 | 生後6カ月以上 | 生後3カ月以上 |
デメリット | 使用開始時に刺激感あり、1~2週間ほどで慣れることが多い。掻き傷やジュクジュクした部位は刺激感が強く出やすいため避けた方が良いです。 酒さを発症、悪化させるリスクがあるため酒さ時は使用を避けた方が良いです。 | ざ瘡(にきび)2%が副作用としてあるため、ニキビが出来やすい方には使いにくい可能性があります。使用部位への単純疱疹(ヘルペス)や帯状疱疹の報告もあるため、繰り返し発症している方では注意が必要です。 | 色素沈着、毛包炎が副作用としてありますが比較的副作用は少ない薬です。 |
メリット | まぶたに使用可能 | まぶたに使用可能 | まぶたに使用可能 |
使用量 | 1回5gまで | 1回5gまで | 上限なし |
使用部位 | 顔、首など皮膚が薄い部位に適する | 全身に使用可 | 全身に使用可 |
内服薬
かゆみが強い際は抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服を併用して行います。また、症状に応じて漢方薬の併用を行うこともあります。
注意点
アトピー性皮膚炎には皮膚のバリア機能低下に伴い合併しやすい皮膚の病気があります。とびひ(黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌が皮膚に感染をすることで発症をします)、カポジ水痘様発疹症(ヘルペスウイルスが感染をすることで発症をします。単純疱疹と原因ウイルスは同じですが、水疱・びらんが急速にたくさん出現し広範囲に広がり、角膜炎や脳炎など重症化しやすい)、ウイルス性イボ(尋常性疣贅=いわゆるいぼ、伝染性軟属腫=みずいぼ)などです。