性感染症治療薬の種類と比較
性感染症治療に用いられる薬の種類は原因となる病原体の種類により以下のものがあります。
性感染症治療薬
抗生物質
抗生物質は細菌感染時の治療に用いられ、性感染症の治療には点滴、内服薬、外用薬が用いられます。抗生物質の主な種類は以下になります。 記載「一般名:〇〇(代表的な商品名:△△)」
抗菌薬のグループ | 代表的な薬剤名 |
テトラサイクリン系 | 内服:ドキシサイクリン(ビブラマイシン) 内服:ミノサイクリン(ミノマイシン) |
マクロライド系 | 内服:アジスロマイシン(ジスロマック) |
キノロン系 | 内服:シタフロキサシン(グレースビット) 内服:レボフロキサシン(クラビット) |
ペニシリン系 | 内服:アモキシシリン(サワシリン) 筋注:ベンジルペニシリンベンザチン(ステルレイズ) |
セフェム系 | 点滴:セフトリアキソン(ロセフィン) |
アミノグリコシド系 | 筋注:ゲンタマイシン(ゲンタシン) 筋注:スぺクチノマイシン(トロビシン) 外用:ゲンタマイシン(ゲンタシン) |
ニトロイミダゾール系 | 膣錠:メトロニダゾール(フラジール) 内服:メトロニダゾール(フラジール) |
抗生物質内服の注意点
内服の抗生物質は金属イオンで吸収が低下するものがあるため、
テトラサイクリン系、キノロン系は「アルミニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム」
マクロライド系は「アルミニウム、マグネシウム」
を含む薬剤やミネラルサプリメントを併用する場合は抗生物質内服後2時間以上間隔を空ける必要があります。
内服の抗生物質の使用により、膣カンジダの発症リスクが高まる可能性があります。
妊娠中の抗菌薬の使用は「治療による効果がリスクを上回る場合のみ」です。ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系が安全性が高いといわれるため、ジスロマックが使用されることが多いです。「キノロン系」は基本的には使用されず、「テトラサイクリン系」は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみとされています。
ピルの効果を減弱させる可能性のある抗菌薬はテトラサイクリン系とペニシリン系といわれています。
テトラサイクリン系
テトラサイクリン系の抗生物質は細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を発揮する薬となり、「静菌的作用」があります。よく使用される、ミノサイクリン、ドキシサイクリンは経口での内服で消化管で90%以上吸収されるため高い効果が期待されます。テトラサイクリン系は「アルミニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム」を含む薬剤やサプリと一緒に内服をすると吸収が低下するため、2時間以上間隔を空ける必要があります。
テトラサイクリンは経口避妊薬の有効性を低下させ、経口抗凝固薬の作用を増強させることがあるといわれています。妊娠中・授乳中、8歳未満の方は歯の発育不全や歯牙の着色、歯のエナメル質形成不全などの影響があるため、なるべく避けた方が良いといわれています。
ミノサイクリンとドキシサイクリンを比較した場合、ミノサイクリンはめまい、耳鳴りといった前庭機能障害が出現する可能性があるため、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作および高所での作業等に従事させないように」という添付文章上の注意書きがあるため、内服期間中に自動車運転する場合は不適となります。ドキシサイクリンは前庭機能障害はなく、薬の添付文章上も運転についての記載はなく、ドキシサイクリンの方が選ばれることが多い薬となります。
クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマへの効果があり、使用される抗菌薬となります。梅毒へも効果がありますが、梅毒治療の第一選択薬はアモキシシリンの内服、もしくはベンジルペニシリンベンザチンの筋注となり、ペニシリンアレルギー時などに第二選択薬としてミノサイクリンが選ばれますが妊婦への使用は避けられます。
淋菌もかつては効果がありましたが近年では耐性化が著しく、テトラサイクリン系で治癒失敗となることが多いため、淋菌陽性時はセフトリアキソンの点滴治療が必要となります。
難治性のマイコプラズマ・ジェニタリウムの場合はシタフロキサシンの内服と併用した療法を行う場合もあります。
治療以外の使われ方として、クラミジア、淋菌、梅毒の感染予防薬としてドキシペップ(Doxy-PEP)という名前で用いられます。
マクロライド系
マクロライド系抗菌薬は細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を発揮する薬となり、「静菌的作用」があります。エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、アセチルスピラマイシンなどがありますが、性病治療ではアジスロマイシンが主に使用されます。
マクロライド系は「アルミニウム、マグネシウム」を含む薬剤やサプリと一緒に内服をすると吸収が低下するため、2時間以上間隔を空ける必要があります。
アジスロマイシンの特徴としては1回の経口内服で済むため「服薬アドヒアランス」が高く、飲み忘れなどの影響での治癒失敗が起こりにくい点にあります。また、妊娠中の女性でも比較的安全に使える抗生物質となります。
クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマへ効果のある抗生物質ですが、肛門直腸感染をしたクラミジアでのアジスロマイシンの治癒成功は8割を下回り、ドキシサイクリンの方が9割以上と高いという報告があります。1)
マイコプラズマ・ジェニタリウムへの耐性化が問題となっています。東京の無症候性のMSM(男性間性交渉者)でのマイコプラズマ・ジェニタリウムのスクリーニングを行った研究で、マクロライド耐性変異をもつ割合が89.6%、キノロン耐性変異をもつ割合が68.3%と高い確率で耐性を有していることがわかってきています。2)
淋菌もかつては効果がありましたが近年では耐性化が著しく、治癒失敗となることが多いため、淋菌陽性時はセフトリアキソンの点滴治療が必要となります。
内服が1回で済むという簡単さと妊娠中でも使用が可能という安全性の高さから使用されることが多いアジスロマイシンですが、薬剤耐性化や組織移行性の問題からマクロライド系の抗生物質で治癒失敗となることがあります。治療後は治癒確認検査を行い、治癒失敗時は他の抗生物質での治療が必要となる可能性があります。
キノロン系
キノロン系抗菌薬は細菌のDNAの複製に関わる酵素を阻害することで「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。プルリフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシンなどがあり、シタフロキサシンが性病治療でよく使用されます。
キノロン系は「アルミニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム」を含む薬剤やサプリと一緒に内服をすると吸収が低下するため、2時間以上間隔を空ける必要があります。
キノロン系は原則、妊娠中・授乳中、乳幼児、小児(0~14歳)は禁止とされているため、可能性のある場合は違う抗生物質が使用されます。(主にマクロライド系、ペニシリン系、セフェム系)
クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマへ効果のある抗生物質で使用されることが多いです。耐性化が進んでいるマイコプラズマ・ジェニタリウムの治療にも使用されます。
淋菌もかつては効果がありましたが近年では耐性化が著しく、治癒失敗となることが多いため、淋菌陽性時はセフトリアキソンの点滴治療が必要となります。
シタフロキサシンはマクロライド系同様に耐性化が問題となっております。
ペニシリン系、セフェム系
ペニシリン系・セフェム系ともに、細菌の細胞壁合成を阻害し細菌に「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。ペニシリン系・セフェム系は細胞壁に関連して抗菌作用を発揮するため、細胞壁をもたない「マイコプラズマ、ウレアプラズマ、クラミジア」には効果がありません。
ペニシリン系は性感染症治療では主に梅毒の治療に使用され、内服:アモキシシリン(サワシリン)、筋注:ベンジルペニシリンベンザチン(ステルレイズ)の治療が行われいます。
セフェム系はセフトリアキソンの点滴を淋菌の治療に使用します。
郵送検査で淋菌が陽性と出た場合、内服治療では治療失敗となることが多いため、治療はオンライン診療では完結せず、近くのクリニックを受診し、治療を受ける必要があります。
アミノグリコシド系
アミノグリコシド系はタンパク質合成阻害と細胞膜への障害をあたえ「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。
外用薬ではゲンタマイシン軟膏(細菌性の亀頭包皮炎で使用)が使用されます。
注射製剤だと筋注のスぺクチノマイシン、筋注のゲンタマイシンを淋菌治療のため使用します。
スぺクチノマイシンは咽頭感染時の治療は無効なため、セフェム系にアレルギーがある場合などセフトリアキソンの点滴治療ができない場合に使用されることが多いですが限定的であるため、アジスロマイシン2g内服とゲンタマイシン240mg筋注での治療が検討されます。
自費治療にはなりますが、多剤耐性マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療でスぺクチノマイシンを2g/日の7間筋注とドキシサイクリンの併用が有効である可能性がるといわれています。
ニトロイミダゾール系
メトロニダゾール(フラジール)は膣錠と内服薬があり、抗原虫作用と抗菌作用を有します。抗原虫薬で詳しくまとめてあります。
参考文献
1) Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021 Jun 24;384(25):2418-2427.
2) Naokatsu Ando et al. High prevalence of circulating dual-class resistant Mycoplasma genitalium in asymptomatic MSM in Tokyo, Japa. JAC Antimicrob Resist. 2021 Jun 30;3(2) :dlab091.
抗真菌薬
抗真菌薬はカンジダ感染時の治療に用いられ、主に外用薬、膣錠が用いられますが、内服薬も使用されます。「一般名:〇〇(代表的な商品名:△△)」
男性では亀頭包皮炎、女性では外陰膣カンジダ症として発症することが多いため、男性は症状部の外用薬での治療を行い、女性は膣錠での治療や痒みや炎症の部位に応じ外用薬の併用治療もしくは内服治療を行います。
膣錠
膣錠は毎日挿入するものと、1週間に1回のものがあります。
1日1回1錠を膣内に挿入、7日間行います |
クロトリマゾール 100mg(エンペシド腟錠 100mg) |
ミコナゾール硝酸塩100mg(フロリード腟坐剤100mg) |
イソコナゾール硝酸塩100mg(バリナスチン腟錠100mg) |
オキシコナゾール硝酸塩 100mg(オキナゾール腟錠100mg) |
1週間に1回の膣内挿入 |
イソコナゾール硝酸塩300mg(バリナスチン腟錠300mg)2錠を1回使用 |
オキシコナゾール硝酸塩 600mg(オキナゾール腟錠600mg)1錠を1回使用 |
内服薬
カンジダによる膣炎および外陰膣炎に対して内服薬を服用する場合があります。フルコナゾールは妊婦においては使用を避ける薬剤となっています。また、他剤との相互作用などに注意が必要です。
フルコナゾール(ジフルカン) 50mgもしくは100㎎ 1回量150mgとなるように 1回内服
外用薬
女性では大陰唇より外側にかゆみなどの症状がある際に使用をします。抗真菌薬の外用薬には他にルリコナゾール(ルリコンクリーム1%)などがあり、効果は期待できるのですが、外陰部カンジダ症を適応症としていない外用薬が多くあり、以下のものが使用されます。
男性では局所を清潔に保ち、過度にこすらないようにし症状のある部位へ外用薬を塗布します。
1日2~3回外陰部に塗布をします。 |
クロトリマゾール 10mg/1g(エンペシドクリーム1%) |
ミコナゾール硝酸塩 10mg/1g(フロリード Dクリーム1%) |
エコナゾール硝酸塩 10mg/1g(パラベールクリーム1%) |
オキシコナゾール硝酸塩 10mg/1g(オキナゾールクリーム1%) |
抗原虫薬
ニトロイミダゾール系のメトロニダゾール(フラジール)が一般的に使用されます。メトロニダゾールには細菌や原虫のDNAの切断作用を有し、原虫だけでなく嫌気性菌への強い抗菌作用も有しているため膣トリコモナス症や細菌性膣症の治療に使用されます。
膣トリコモナス症への治療
内服:メトロニダゾール(フラジール錠 )250mg 1回1錠を1日2回 10日間
膣錠:メトロニダゾール(フラジール腟錠)250㎎ 1回1錠を10〜14日間腟内に挿入
男性の膣トリコモナス症は無症状が多く、症状が軽い尿道炎であることが多いですが、上行性に感染をし前立腺への感染も起こすため、排尿で原虫が全て洗い流されることはなく内服薬での治療が必要となります。
女性ではトリコモナス性膣炎が多いですが、尿路感染の可能性も考慮に入れた内服薬の治療が必要となります。難治時は内服薬と膣錠の併用治療を行います。
メトロニダゾールは、胎盤を通過し胎児へ移行するため、原則として妊婦への経口投与は避け、膣錠での局所療法となります。
メトロニダゾールの内服中の飲酒および服用後3日間はアルコールを飲むとアルコールが分解されにくくなるため、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇しやすくなり大変危険なため禁酒が必要です。
細菌性膣症への治療
膣錠:メトロニダゾール(フラジール腟錠)250㎎ 1回1錠を7〜10日間腟内に挿入