ニキビができると大きさにかかわらず毛穴の周囲に強い炎症が起きることで毛穴周辺の組織にダメージが生じます。炎症によって生じた肌のダメージに対して皮膚がどのように反応するかによって4つのニキビ跡のパターンに分類されます。ニキビ跡と一言でいっても状態が異なり、その状態による効果的な治療方法が異なるため、今どの状態なのかを把握することは最適な治療を選ぶ上で重要になります。

ニキビ跡の4つのパターン

炎症後色素沈着

炎症後紅斑

萎縮性瘢痕(いわゆるクレーター)

肥厚性瘢痕、ケロイド(しこりや膨らみ)

成熟瘢痕

炎症後色素沈着(PIH:post inflammatory hyperpigmentation)

ニキビによる強い炎症や炎症によるダメージからの回復過程で産生されるサイトカインによって、メラニンを作るメラノサイトが活性化しメラニンが過剰に分泌され皮膚に沈着した状態のことをいいます。沈着する深さによって色見は変わり、浅いところへの沈着では茶褐色、深めの沈着では灰色や黒色となります。半年ほどかけて自然に色見は落ち着いていきますが、そのまま残ってしまうこともあります。

 表皮の色素沈着への治療は紫外線対策を徹底した上で下記のものがあります。

レチノイド作用を有する薬剤の外用

ニキビの治療薬として使用される「ディフェリン(アダパレン)」には異常な角化を抑えることで毛穴周囲で角質が厚くなり、毛穴が詰まらないようにする働きがあります。

レチノイド様作用により肌のターンオーバーを促進させ、肌に過剰に沈着したメラニンを体外に排出する働きがあり、ニキビ治療だけでなくニキビ跡の色素沈着の改善効果が期待できます。

「トレチノイン」は日本国内では未承認の医薬品です。トレチノインは皮膚のターンオーバーを促進し、表皮の肥厚と角質の剥離効果により毛穴のつまりを改善させ海外ではニキビ治療に用いられます。真皮の線維芽細胞を活性化させることでコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸を増やし創傷治癒を促進させる効果もあるため、色素沈着を含めたニキビ跡治療に効果が期待できます。

ディフェリン、トレチノインとも妊娠の可能性がある方や妊娠中の方は使用することができません。

20%アゼライン酸の外用

アゼライン酸は日本では医薬品ではなく化粧品に分類される成分になりますが、海外ではニキビや酒さの治療に使用されます。アゼライン酸には皮脂分泌を抑制する効果、異常角化を抑制する効果、活性酸素を除去することによる抗炎症効果、メラニン産生に関与するチロシナーゼを阻害しメラニンの生成を抑える効果があり、炎症後色素沈着への改善効果が期待できます。

塗りはじめにピリピリとした独特の刺激感がありますが、1~2週間で慣れていきます。催奇形性はないため、妊娠中でも問題なく使用をすることができます。

トレチノイン・ハイドロキノンの併用

ターンオーバーを促しメラニンの排出を促進するトレチノインと、メラニンの生成を抑えるハイドロキノンの併用により色素沈着への改善効果が期待できます。ハイドロキノン単独でも効果は期待できますが、既に沈着してしまっているメラニンは排出されるのを待つ必要があるため、より早い排出を期待して併用を行います。

ピーリング剤の使用

角質の剥離作用を有するピーリング剤(サリチル酸マクロゴールやグリコール酸、低濃度TCAなど)を使用し、ターンオーバーを促進させ沈着したメラニンの排出を促す治療となります。美白剤の外用と併用を行う場合やダーマペンと薬剤を併用(ウーバーピール)する場合もあります。

レーザー治療

レーザーでの治療は低出力でのNd:YAGレーザー(1064nm)による照射(レーザートーニング)になります。できてしまってから年単位で経過した色素沈着(炎症がなく、メラニン沈着のみの状態)では高出力のQスイッチもしくはPICO秒レーザーでのスポット照射による治療も検討することがありますが再度色素沈着を起こす可能性があります。

炎症後紅斑(PIE:post inflammatory erythema)

ニキビによる強い炎症による毛穴周囲の組織がダメージを受け炎症が起きた後、それを治すために創傷治癒過程が起きます。炎症や創傷治癒過程では血小板やマクロファージ、角化細胞が分泌された増殖因子の影響を受けてコラーゲン生成が促されるだけでなく、血管内皮細胞にも働き毛細血管の新生や拡張も促され、その結果として紅斑ができることがあります。時間経過とともに炎症が落ち着いていき色も落ち着いていきますが皮膚の菲薄化を伴う場合は皮下の血管や真皮層が透けて見えることで、赤みが残ることがあります。

治療はニキビを繰り返している場合はニキビをできにくくする治療が優先されます。ニキビ跡の赤みが引いても新たなニキビが出来て赤みが残ってしまうことを繰り返している状態の場合はニキビをできにくくする治療が大事になります。

赤みへの治療は赤色に反応するレーザーや光を照射することで毛細血管に作用させ凝固、縮小することで赤みの軽減と抗炎症効果が期待されます。色素レーザー(ロングパルスダイレーザー:Vビームレーザー)、IPL、ロングパルスヤグレーザー、レーザダイオード励起Nd:YAGレーザ(589nm/1319nmの波長照射可能な機種の589nmでの照射:アドバテックスレーザー)など酸化ヘモグロビンの吸光度の高いレーザーを照射し治療を行います。クレーターも合併している場合は、ニードルRFにより熱を皮下に加えつつ、皮膚のリモデリングを促す治療を行う場合もあります。

萎縮性瘢痕(いわゆるクレーター)

萎縮性瘢痕(クレーター)はいわゆるニキビ跡のクレーターのことをいいます。ニキビによる強い炎症により毛穴周囲の組織が壊され、それを治すために創傷治癒過程が起きます。損傷部位が大きかったり、創傷治癒によるコラーゲン生成が不十分となった結果、ニキビがあった部分が凹み、線維化した瘢痕組織が周囲にできた状態のことを萎縮性瘢痕といいます。0.3%アダパレンと2.5%過酸化ベンゾイル配合ゲルの使用が萎縮性瘢痕の予防と減少に有効であるという報告があります。一度できてしまった萎縮性瘢痕は自然に治ることはありません。

萎縮性瘢痕にも種類があり、Jacobらによる分類が有名です。萎縮性瘢痕を特徴別に「アイスピック型」、「ローリング型」、「ボックスカー型」に分類を行います。自然治癒は難しく、瘢痕組織を除去し皮膚のリモデリングを促す施術を根気強く継続していき目立たなくするのが治療のゴールになります。早く治そうとし、本来の自然治癒できる範囲以上の強い刺激で施術を行うと、赤みの残存が長期化したり、施術による瘢痕が形成され悪化してしまう可能性があります。

アイスピック型

アイスピック型はクレーターのサイズ(開口部)は2㎜以下と小さいのですが、奥に深いタイプになります。クレーターの深さは皮下組織まで及ぶこともあります。クレーターの周囲は硬い瘢痕組織で覆われており、難治性となります。

治療は炭酸ガスレーザーによるアブレーション、TCAクロス、パンチングによるくりぬき法、で瘢痕組織を除去する方法が効果的なことが多いですが、侵襲性の高い治療となります。ニードリングやフラクショナルレーザーでのリモデリングなども効果は期待できますがかなりの回数の施術を要することやほとんど効果を得られないことがあります。

ローリング型

 ローリング型はクレーターのサイズが4㎜以上と大きく、クレーターの境界は不鮮明でなだらかな凹みです。強い炎症による線維化した瘢痕組織が毛穴の周囲だけでなく真皮から筋膜にかけて縦方向に生じてしまい皮膚が下にひきつられている状態です。この縦方向の線維は、縦方向に治療をしていくフラクショナルレーザーやダーマペンでは効果が出にくく、皮膚表面の瘢痕組織が原因となっているわけではないため、炭酸ガスレーザーによるアブレーションやTCAクロスも効果が出にくいです。縦方向の瘢痕組織を剥離するサブシジョンを行うことで治療を行います。

ニキビの炎症が脂肪組織に及んだ結果、脂肪萎縮やコラーゲンの減少を伴い「ボリュームロス」がある状態ではサブシジョンに加え、レニスナでのボリュームアップを促したり、架橋ヒアルロン酸、脂肪注入での充填療法の併用を行います。

ボックスカー型

 ボックスカー型はクレーターの境界が垂直ではっきりとし底は平らなクレーターです。ローリング型を合併していることもあるため、サブシジョンや表面の瘢痕組織除去のためにTCAクロスや炭酸ガスレーザーのアブレーション、リモデリングを促すためのフラクショナルレーザーやニードリング、ニードルRFなどでの治療を行います。

萎縮性瘢痕のニキビ跡にはこれらに分類されないようなタイプとして、ニキビの後に毛穴の開きが強くなるタイプや広く浅いクレーターができるものもあり、フラクショナルレーザーやニードリングでのリモデリング治療が中心となります。

ニキビ跡は単独で存在する場合もあれば、様々なニキビ跡が合併していることがしばしばあります。治療は様々な治療がありますが、侵襲性が高くダウンタイムの長い治療の方が効果は高く、侵襲性が低くダウンタイムの短い治療の方が効果は小さくなります。ニキビ跡の状態やとりうるダウンタイムやリスクによっても治療方針は変わるため、治療の進め方は「この施術を行えばよくなるわけではなく、オーダーメイドでの治療の組み立て」となることが多いです。

ニキビ跡(クレーター)治療の大きな分類

  • 皮膚表面の瘢痕を除去するため強い侵襲を伴う施術(炭酸ガスレーザーによるアブレーション、TCAクロス、パンチングによるくりぬき法など)
  • 皮下の縦方向の線維を断ち切りローリング型クレーターを改善させる施術(カニューレや鋭針でのサブシジョン、機械を使用したマイクロサブシジョン)
  • 皮膚表面から針を刺すことによりリモデリングを促す施術(コラテラピーなど)
  • 機械を使用しリモデリングを促していく施術(ニードルRF、マイクロニードリング、フラクショナルレーザーなど)
  • 薬剤を注入し線維芽細胞の活性化を促す施術(ジュベルックなど)
  • 真皮のコラーゲン生成のある薬剤(トレチノイン、TCA含有ピーリング)

皮膚表面の瘢痕を除去するため強い侵襲を伴う施術

表面の刺激が強い施術では「炭酸ガスレーザーによるアブレーション」「TCAクロス(TCAを使用したスポットピーリング)」「パンチングによるくりぬき法」があります。クリニックによってはサブシジョンという名称で「サブシジョン+炭酸ガスレーザーによるアブレーション治療」を併用して行っていることがありますが、サブシジョンはカニューレ(鈍針)や鋭針を使用した縦方向に形成された瘢痕組織の解除を目的とした施術のため、皮膚表面への治療は行いません。

クレーター部分の瘢痕組織を物理的に除去する「炭酸ガスレーザーによるアブレーション」、強酸の腐食により溶かす「TCAクロス」、パンチングにより瘢痕組織ごとニキビ跡周囲をくりぬいてしまう「くりぬき法」は侵襲性の強い治療方法となり、高い効果が期待される反面、ダウンタイムといわれる赤みが6か月以上及ぶ可能性があることや、クレーターの悪化リスク、白色瘢痕やケロイド、肥厚性瘢痕化のリスク、など施術によるリスクにも注意を要する治療となります。

施術者によりどの程度削るもしくは腐食反応させるかは様々で施術者による技量で効果が大きく変わる可能性が高いです。

皮下の縦方向の線維を断ち切りローリング型クレーターを改善させる施術

カニューレを使用したサブシジョンでは波打つようなニキビ跡であるローリング型に効果的とされています。カニューレで皮下にある縦方向に走る線維を剥離することで引き連れを解除します。再癒着を防ぐ目的で施術部位へ架橋ヒアルロン酸の注入や、ボリュームを増やす目的でレニスナの注入を行う場合があります。実際、瘢痕組織形成のみのクレーターは少なく、脂肪萎縮やコラーゲン減少といった「ボリューム減少」を伴うことが多いため併用を行うと効果的です。

サブシジョンの後、数か月経過をして元に戻ったというのは再癒着の可能性もありますが、注入したヒアルロン酸が再癒着防止目的だけでなく、ヒアルロン酸が「ボリューム減少」を補っていた可能性があるため、これが原因のときはサブシジョンを繰り返しても効果が得られにくいため、レニスナの注入などボリュームコントロールを行う必要があります。

マイクロサブシジョンは機械を使用した施術となります、「トライフィル」という機械を使用し、皮下の浅い層に針を刺入し炭酸ガスを噴出することで剥離スペースをつくり瘢痕組織の剥離を行い薬剤の注入行います。「キュアジェット」といい針を使わずにマイクロジェットによって皮下組織を断裂させるマイクロサブシジョンと薬剤の注入を行います。

皮膚表面から針を刺すことによりリモデリングを促す施術

皮膚表面から針を刺入することで皮膚のリモデリングを促す治療となります。機械を使用したニードリング(ダーマペンやダーマローラーなど)の医師施術のイメージでいいかと思います。韓国ではコラテラピーという名称で施術されており、針での刺激は瘢痕組織そのもの除去する治療ではないものの創傷治癒過程を促進する働きがあり、凹み部分を隆起させる効果が期待できます。また、針の刺入角度や深さによりクレーター直下の縦方向の線維を切離する効果が期待されます。深く針を刺入することで、底面に表皮細胞や表皮付属器官がない状態となると「成熟瘢痕」化する可能性があります。

機械を使用しリモデリングを促していく施術

比較的皮膚への侵襲が少ない施術にはなりますが、機械の出力の設定によりその強さは変わるため赤みが長引くなどのリスクはありますが皮膚表面の瘢痕を除去する施術と比べると症状は軽度のことが多いです。軽度のニキビ跡であれば十分ですが、強いニキビ跡の場合は侵襲性の高い治療やサブシジョンとの併用が必要となります。

フラクショナルレーザー(炭酸ガス、PICOなど)、ニードリング(ダーマペン、ダーマローラーなど)、ニードルRF(ポテンツァ、シルファームなど)などがあります。回数を重ねて皮膚に熱や針で傷をつけることで創傷治癒過程を促し、瘢痕組織を減らしていくことで、「リモデリングを促す」施術となります。ニキビ跡が重度の場合ではかなりの回数を要する場合や自覚的な効果がほとんど得られない可能性があります。

薬剤を注入し線維芽細胞の活性化を促す施術

ジュベルックなどのPDLLAやリジュランシリーズ、プルリアルシリーズのポリヌクレオチド製剤などが使用されます。皮下に線維が細胞を活性化させる薬剤を注入することでニキビ跡の改善効果が期待できます。注入治療では瘢痕組織の除去はできないため、瘢痕組織を除去もしくはリモデリングを促す施術との併用が必要となります。

真皮のコラーゲン生成のある薬剤

トレチノインは皮膚のターンオーバーを促進する効果だけでなく、真皮の線維芽細胞を活性化させコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸の生成を促す働きがあります。トレチノイン・ハイドロキノン療法といったシミや肝斑といったメラニン沈着への治療にも用いられます。シワやニキビ跡部分のコラーゲン生成を促すことで効果が期待できますが、瘢痕組織の除去はできないため瘢痕組織を除去もしくはリモデリングを促す施術との併用が必要となりますが、他施術と組み合わせる際は休薬が必要となります。

TCAを含有するピーリングは真皮層に浸透しコラーゲン生成を促す効果が期待できます。バイオリピール(ミラノリピール)やマッサージピールになります。

肥厚性瘢痕・ケロイド

肥厚性瘢痕・ケロイド肥厚性瘢痕・ケロイドはニキビ後のしこりや膨らみのことです。ニキビの炎症により毛穴周囲の組織が破壊された後、それを治すために創傷治癒が起きます。その過程でコラーゲンの生成が過剰におき硬く膨らんだ状態を肥厚性瘢痕やケロイドといいます。肥厚性瘢痕は数年かけて徐々に平坦になり色も赤色から白色に変化していきますが、ケロイドは改善傾向がなく周囲へ広がり拡大していこうとしていき自然に治ることはほぼありません。肥厚性瘢痕では痛みやかゆみの症状は少ないですが、ケロイドでは強い痛みやかゆみを伴うことがあります。

治療はトラニラスト、柴苓湯の内服。ステロイド含有テープや軟膏。ステロイド(ケナコルト)の局所注射。切開縫合、レーザー治療(Vビームレーザーやロングパルスヤグレーザーなど)、放射線治療などになります。肥厚性瘢痕へのフラクショナルレーザーが効果があったという報告もあります。炎症を抑えることでコラーゲンの生成を抑える治療になりますが、治療に時間を要し、治療効果が乏しい場合もあります。また、ケナコルトの注射では脂肪萎縮により陥凹や、皮膚萎縮、色素脱出を起こすことがあります。

成熟瘢痕

傷跡は最初は赤みを帯びていますが時間経過とともに徐々に赤みが薄くなっていきます。傷を受けた部分は創傷治癒過程を経て治っていきますが、リストカットの後や昔の手術の跡、切り傷、ニキビ跡などが白く残った状態のことを「成熟瘢痕」といいます。痛みやかゆみなどは伴いませんが、硬さや表面がつるっとした肌触り、白くくっきりとした傷跡として視認されるため、外見上の問題となることが多いです。

すべての傷後が成熟瘢痕になるわけではなく、真皮の深い部分や皮下組織にまでおよぶような傷を受けると傷跡として残ってしまいます。深い傷の場合は傷の底に表皮付属器(表皮細胞や毛穴の中にある表皮細胞など)がないため、周辺組織から表皮細胞が遊走するなどして治癒していきますが治癒には時間を要し、傷跡として残ってしまいます(二次治癒)。炭酸ガスレーザーのアブレーションやTCAクロス、パンチングなどによって表皮付属器まですべて除去してしまうと施術部位が広範囲に成熟瘢痕化する可能性があり、施術者の技術やニキビ跡の状態の評価はとても大事になります。

治療はフラクショナルレーザーで傷跡を目立ちにくくする治療があります。治療自体は回数が必要となるため、年単位を要することもあります。また、完全に見た目が周囲と同じになるわけではなく、傷が大きい場合は期待される効果が得られない可能性があります。

他の治療法は手術により成熟瘢痕部分を除去する治療となります。