サブシジョンについて
サブシジョン(皮下瘢痕剥離術)は、ニキビ瘢痕の治療法の一つとなります。特にローリング型瘢痕の改善に有効とされ、深いボックスカー型瘢痕にも効果があるといわれています。この手法は瘢痕を皮膚の深部で切断することで、引きつれを解除することで皮膚表面を滑らかにすることを目的とした治療となります。純粋なローリング型のみのニキビ跡は少なく、皮下組織のボリューム減少を伴うことが多いため、再癒着を防ぐ目的とボリュームを補う目的でヒアルロン酸の注入やボリュームアップを目的としたレニスナ(PDLLA製剤)などをサブシジョンで切断後に施術部位へ注入を併用することがあります。
サブシジョンの作用機序
サブシジョンは以下の3つの過程により改善効果が期待されます。
①瘢痕の線維性癒着の解放
ローリング型瘢痕は、皮膚表面が線維組織によって深部と癒着しており、引き連れるようにして波打つような凹みが生じています。これを物理的に切断することで、皮膚が持ち上がり、表面の滑らかさが改善されます。
②創傷治癒の促進
瘢痕組織を切り離した後にできたスペースを新しい組織で満たすことにより、再び皮膚が引き込まれて凹んでしまうこと(再癒着)を防ぎます。サブシジョンにより組織が損傷することで、創傷治癒過程が促進され線維芽細胞が活性化しコラーゲンなどが生成されることでサブシジョンによりできたスペースを埋める効果があります。
③皮下脂肪の均質化
サブシジョンにより脂肪小葉が均質化されなじむことで、皮下の張力が均等になり、ニキビによって生じた脂肪萎縮を最小限にする効果があります。
組み合わせ治療との相乗効果
- サブシジョン単独でも効果は期待できますが、再癒着の防止と脂肪萎縮によるボリューム減少を補うために架橋ヒアルロン酸の注入を併用する場合があります。架橋ヒアルロン酸はどの製剤を使用するかによりますが、一般的に6~12か月で分解されてしまうため、時間経過とともに「戻ってしまった」と感じる場合があります。原因としては再癒着の可能性もありますが、ボリュームロスを補っていたヒアルロン酸が分解されたためのことも考えられます。
- ボリュームアップのためにポリ乳酸製剤(レニスナ:PDLLA)などを施術部位に注入することがあります。レニスナはジュベルックより粒子の大きいPDLLA製剤となります。皮下組織に注入をすることでボリュームを増やす効果が期待できる製剤となり、ポリL乳酸(スカルプトラ)と比較し、しこりのリスクは低いと考えられています。
- ボックスカー型瘢痕やアイスピック型瘢痕を合併している場合では炭酸ガスレーザーのアブレーションやTCAクロスの併用。他にフラクショナルレーザー、フラクショナルニードルRF治療(ポテンツァやシルファームなど)、マイクロニードリング(ダーマペンやダーマローラーなど) などと併用をすることで、さらに治療効果を高めることができます。
治療方法
サブシジョンの施術方法にはいくつかのバリエーションがありますが、基本的な手順は以下の通りです。
- 局所麻酔
- 施術部位に局所麻酔を注射し、痛みを軽減します。
- 皮下の瘢痕組織の硬さや範囲によっては、広範囲に麻酔を行うことがあります。
- 針またはカニューレの選択(国外ではワイヤーなどを使用する場合もあります)
- Nokor針(18G):サブシジョン用の特殊な鋭針で組織を切断しやすいが、出血のリスクが高いです。
- 18G~27G針:通常の皮下穿刺用の鋭針でNokor針同様に組織を切断しやすいが、出血のリスクが高いです。
- カニューレ針:出血を抑えながらより広範囲を処理できますが、組織の切断が不十分となることがあります。
- 皮下瘢痕組織の切断
- 鋭針やカニューレを皮膚の下に挿入し、扇状に動かして線維性の癒着を切断します。
- 瘢痕のある部分をくまなく剥離し、皮膚が持ち上がることを確認します。
- 皮下瘢痕組織の切断後に注入療法を併用することがあります。
- 圧迫とアイシング
- 施術後の出血や腫れを抑えるために、治療後は圧迫を行い、必要に応じてアイシングをします。
- アフターケア
- 感染予防のための抗菌薬が処方されるため、内服を行います。痛みが強い場合は鎮痛剤の内服を行います。
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針はカニューレと鋭針のどちらがいいのか?
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片頬にカニューレ針、反対の頬にNokor針で施術をし、医師による評価と患者の満足度を術後1週間、1ヵ月、3ヵ月後に評価を行った研究があります。患者と医師はNokor針よりもカニューレ針による施術を有意に満足していたという結果で、著者らは「合併症と満足度を考慮すると、ニキビ跡の治療には カニューレ針が Nokor針よりも効果的」と結論づけました2)。以上からベースとしてはカニューレを使用し、切断が難しい部位に関して鋭針の併用が良いのではないかと思われます。
ダウンタイム
サブシジョンのダウンタイムは比較的短いものの、内出血や腫れが生じます。
施術直後〜数日
- 施術部位に 腫れや内出血 が生じることがあります。稀に血種となるとしこり状に触れることがあり、吸収されるまで1か月程要することがあります。
- 筋肉痛のような鈍い痛みが続くことがあり、必要に応じて鎮痛剤を内服します。
- 施術当日は適時アイシングを行い、炎症を抑えます。
- 洗顔やメイクは翌日から可能となります。針の刺入部がかさぶたとなっている場合はかさぶたは剥がさないようにする必要があります。
1~2週間後
- 内出血が徐々に吸収され、目立たなくなっていきます。
- 腫れは1週間程で大部分が落ち着きますが、体質次第は長引くこともあります。
2〜4週間後
- 腫れが引いていくに伴い、施術の効果が徐々に現れ始めますが、ボリュームロスが強い場合は腫れによりマスクされていることがあるため、腫れが引いてくると再び陥凹が目立ってきます。
- 効果をみて2回目の施術を行うか検討が必要となります。
副作用、リスク
治療に伴うリスクとしては、内出血、腫れは通常伴います。
稀に、血腫形成、神経損傷、瘢痕の悪化(癒着の増悪)、針刺入部の肥厚性瘢痕、皮下のしこり・結節、感染を起こすことがあります。
まとめ
サブシジョンは、特にローリング型瘢痕に効果的な治療法であり、深いボックスカー型瘢痕にも効果が期待できる治療で、以下の特徴を持っています。
- 皮膚の深部にある瘢痕の線維癒着を切断することで、皮膚表面を滑らかにします。
- 内出血や腫れがあるものの、ダウンタイムは1〜2週間程と比較的短いです。
- 単独でも効果がありますが、ヒアルロン酸やレニスナ(PDLLA製剤)、レーザーやニードル治療と組み合わせることで相乗効果が期待できます。
サブシジョンは適応がある場合は非常に有効な治療法となります
肌がたるむ可能性?
一時、X上で話題となったサブシジョン後に肌がたるむ可能性について話題となりました。たるみとの関係についてはpubmedで私が検索した限りは見つかりませんでしたが、以下のような可能性は考えられると思います。
サブシジョン後は真皮から皮膚深部にかけての瘢痕組織が切断された状態となります。瘢痕組織により脂肪が本来あるべき位置より高い位置(年齢で下垂する前の位置)で支えられていた場合ではその支えが無くなるため下の方に移動してしまい、たるみとして見える可能性はあります。また、サブシジョン時に頬に注入したヒアルロン酸がほうれい線上や口横に移動してしまい、ほうれい線を深く見せてしまっている可能性もあります。
一方で肌の内部を刺激しコラーゲン生成を促す施術なのでリフトアップ効果が期待される治療でもあります。
参照
Najmeh Ahramiyanpour et al. Subcision in acne scarring: A review of clinical trials. J Cosmet Dermatol
. 2023 Mar;22(3):744-751.
2) Blunt cannula subcision is more effective than Nokor needle subcision for acne scars treatment. J Cosmet Dermatol. 2019 Feb;18(1):192-196.
Abhinav Vempati et al. Subcision for Atrophic Acne Scarring: A Comprehensive Review of Surgical Instruments and Combinatorial Treatments. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2023 Jan 18;16:125–134