ニキビ治療(保険)
ニキビ治療は「保険診療」での治療が可能で、様々な薬があります。保険治療と保険以外での治療について説明をしていきます。
ニキビは「尋常性ざ瘡」といわれ、「毛包周囲の皮膚の角化異常による毛穴の詰まり」「皮脂分泌量の増加」による「アクネ菌が増殖し炎症を起こした状態」のことをいいます。思春期頃からでき始めることが多いですが、20代からでき始めることもあります。
同じ食事、スキンケア、学校・職場など、「同じ生活スタイル」でもニキビが出来やすい人と出来にくい人がいます。ニキビは双子での研究によりその原因の81%が遺伝的な影響によるものという報告があり、遺伝的な要素も大きいと考えられています。1)
皮脂腺の活動には「アンドロゲン」というホルモンの役割が大きいといわれていますが、ほとんどのニキビ患者さんの場合は正常なホルモンレベルで内分泌的な検査での異常はないといわれています。体質によりホルモン受容体の感受性の違いがあるため、感受性が強い人ほど皮脂の分泌が多くなります。ホルモン性のニキビ(女性でのホルモン変動によるニキビ(生理前の悪化など)がみられる場合)ではピルの服用(アンドロゲンの分泌を抑えるエストロゲン・プロゲステロンを含む)がニキビ治療の効果が期待されます(ニキビ治療目的のピルの処方は自費となります)。
ニキビ・ニキビ跡のでき方
①毛穴が詰まる
性ホルモン(特に男性ホルモンであるアンドロゲンや生理前後で分泌が増えるプロゲステロン)の働きやストレスなどにより、皮脂腺が刺激を受けると皮脂の分泌量が増え皮脂を出し切れなくなり、毛穴内で皮脂が増えてしまいます。また、毛穴の周りの皮膚が様々な刺激を受け、ターンオーバー異常の状態になると、毛穴周囲の角質が厚くなり(異常角化)、毛穴の出口を塞いでしまいます。これらの状態により皮脂を毛穴から排出できずにたまってしまった状態をコメド(面皰)といいます。
コメドには白ニキビ(閉鎖面皰)といわれる白く毛穴が閉じた状態のものと、黒ニキビ(解放面皰)といわれる毛穴は開いているものの角質や皮脂などが詰まった栓のようになった状態のものがあります。コメドは触るとザラザラ、ぼこぼこしたような感じのものもあればほとんどわからないマイクロコメドといわれる状態もあります。毛穴の中では炎症は起きていない状態なので赤みはありません。
②コメドの中でアクネ菌が増殖し炎症が起きる
コメドの内部は皮脂が詰まった状態で空気の出入りはありません。皮脂が大好物で酸素を嫌う性質のあるアクネ菌はコメド内で異常増殖をしはじめます。アクネ菌は炎症を起こす物質を分泌し赤く炎症を起こした状態の「赤ニキビ(紅色丘疹)」となります。
③炎症がさらに強くなる
赤ニキビからさらに炎症が進むとニキビのてっぺんに黄色い膿がたまり、アクネ菌が産生した炎症物質により毛穴の周囲で強い炎症がおこった状態の「黄にきび(膿疱)」になります。
アクネ菌が分泌するリパーゼにより毛穴の壁が破壊され毛穴周囲に菌や炎症物質がさらに広がり、皮膚の下に膿がたまった袋ができた「嚢腫」や硬くしこり状に触れる「硬結」といわれる「重度のニキビ」の状態となり、将来的なニキビ跡となり残ってしまう可能性が高くなります。
④ニキビが治った後にニキビ跡になる
ニキビの強い炎症により、毛穴周辺の組織が破壊されます。ニキビが治ってもニキビが出来た毛穴周囲の組織(表皮・真皮、皮下組織)がダメージを負うことでニキビ跡の状態になります。ニキビ跡は炎症後色素沈着(PIH)、炎症後紅斑(PIE)、萎縮性瘢痕(いわゆるクレーター)、肥厚性瘢痕やケロイド(しこり)、成熟瘢痕の状態があります。
炎症後色素沈着は強い炎症によって皮膚の表皮メラノサイトが活性化しメラニン色素が沈着してしまった状態です。数か月の時間をかけて自然に色見は落ち着いてくることが多いですが、そのまま残ってしまうこともあります。
炎症後紅斑は炎症によるサイトカインの影響や炎症によって毛穴周囲の組織が破壊された後の修復のために毛細血管が拡張・増殖した状態のことをいいます。大部分は半年程の時間をかけて徐々に落ち着いていきますが、炎症後色素沈着や皮膚の菲薄化、萎縮性瘢痕を合併していることがあります。
萎縮性瘢痕(いわゆるクレーター)のことでニキビの炎症により毛穴周囲の組織が破壊された後、それを治すために創傷治癒過程が起きます。その過程で組織の修復が不十分で瘢痕組織ができてしまった状態を萎縮性瘢痕といいます。
肥厚性瘢痕・ケロイドはニキビ後のしこりのことです。過剰なコラーゲンの生成により硬く膨らんだ状態をいい、時間経過とともに落ち着いていくのを肥厚性瘢痕、拡大傾向で痛みやかゆみなどを伴うものをケロイドといいます。
ニキビの治療
ニキビ治療は美容皮膚でも行えますが、これまで治療歴がない場合は保険診療での治療がおすすめです。日本皮膚科学会による尋常性ざ瘡ガイドライン2023に則ったエビデンスの高い治療を受けることができます。保険治療と自由診療による美容皮膚科治療について説明をしていきます。
ニキビの保険治療
ニキビの治療は、「赤ニキビや黄ニキビといった炎症のある状態を落ち着かせる治療」と「ニキビを出来にくくする治療」があります。
炎症のあるニキビ(赤ニキビ、黄ニキビなど)の治療
炎症のあるニキビの治療
抗菌薬の外用:アクネ菌を殺菌する働きのある外用薬
過酸化ベンゾイルの外用:角質の剥離作用とアクネ菌を殺菌する働きのある外用薬
アダパレンの外用:毛包上皮の角化を正常化させる外用薬
抗菌薬の内服:膿腫や硬結など重症のニキビで外用薬と併用をする
ステロイドの局所注射:膿腫や硬結など重症のニキビで外用薬と併用をする
炎症のあるニキビの治療後はコメドを出来にくくするための維持療法として過酸化ベンゾイルやアダパレンが使用されます(抗菌薬にはニキビを出来にくくする働きはありません)。乾燥が強い場合では保湿剤の併用を行うこともあります。
膿腫や硬結といった皮膚の奥にあるしこりニキビでは塗り薬の効果が不十分となるため、抗菌薬の内服での治療やステロイドの局所注射を併用します。
外用抗菌薬
抗菌薬には角質により毛穴が詰まり皮脂が貯まった状態である白ニキビを抑える働きはなく、感染による炎症のある赤ニキビの治療に用いられます。対症療法(ニキビの原因の治療ではなくニキビの症状の治療)といわれる治療のため、コメドが出来やすい肌の状態は変わらず、赤ニキビが治ってもまた別のところに新しいニキビが出来やすい状態のままとなります。
赤ニキビで荒れてしまっている肌を落ち着かせてあげるためにはとても大事な治療になります。抗菌薬での赤ニキビの治療のみではニキビを出来にくくする根本治療ではないことと、アクネ菌が抗菌薬で治療できない耐性化の状態となると抗菌薬の塗り薬が効かなくなってしまいます。また、白ニキビには抗菌薬は効果がないため、炎症性ニキビの治療後はニキビを出来にくくするための維持療法が重要となります。
外用抗菌薬にはクリンダマイシン、ナジフロキサシン、オゼノキサシンがあります。耐性菌に関する論文をメタ解析をした研究によると、クリンダマイシンの耐性率は31%、エリスロマイシンの耐性率は36.6%、ドキシサイクリンは7.9%という、レボフロキサシンは6.1%という報告2)があるため、クリンダマイシンの外用は耐性菌のため効果が得られない可能性があります。
過酸化ベンゾイルの外用
過酸化ベンゾイルは強い酸化作用をもちます。皮膚に塗布をすると分解してフリーラジカルを生じてることでアクネ菌の殺菌効果があります。抗菌薬と異なり耐性菌はいません。
過酸化ベンゾイルは直接的なコルネオデスモソームの破壊をし角質剝離作用を有します。コルネオデスモソームは角質細胞間を接着している物質となります。毛包上皮の角化を剥離することでコメドやニキビを出来にくくする働きがあり、ニキビを出来にくくする維持治療にも使用されます。
過酸化ベンゾイルは副作用の発現頻度が高い外用薬でもあり、43.7%といわれています。主な症状としては皮膚剥脱が18.6%、刺激感が14.0%、紅斑が13.8%、乾燥が7.4%となります。使い始めに「赤み、ヒリヒリ感、皮むけや乾燥」といった症状が出やすい薬になりますが、通常は使い続けることで肌が徐々に慣れていきます。最近では刺激感が少ないローションタイプの製剤もあたらしく承認されました。
約3%で接触皮膚炎といい皮膚のかぶれが起こることがあります。原因としてアレルギー性のものと刺激性のものがあります。アレルギー性のものは塗るといつでも症状が出現しますが、刺激性のものは体調や肌の状態により出るときと出ないときがあります。軽度の刺激感の場合は継続をし、塗布部位がじゅくじゅくする場合(漿液性紅色丘疹)や強いかゆみ・赤み・腫れ(浮腫性紅斑)がある場合は使用を中止する必要があります。
衣服に付着すると漂白作用があるため、塗布後の手で衣服に触れたり、就寝中に寝具が触れたりすると色あせてしまうため注意が必要です。
アダパレンの外用
アダパレンは毛包上皮の角化を正常化させ、新たなニキビを出来にくくする働きがあります。アダパレンは抗炎症作用を有するため、赤ニキビにも使用されますが、浸出液の出ているニキビは避けて使用をします。
アダパレンの副作用の発現頻度は78.9%と高い外用薬です。乾燥が56.1%、不快感47.6%、皮膚剥脱が33.5%となります。刺激症状は外用を継続していくと次第に軽減していきますが、使用開始時に徳に注意が必要となります。症状が強い場合では、ショートコンタクトセラピーといわれる本来なら夜に塗布をして朝洗い落とす薬剤ですが、10分→20分→30分→60分で洗い落とす時間を徐々に伸ばすといった塗り方や、塗布範囲を徐々に広げたり、量を徐々に増やすといった塗り方があります。
毛穴を詰まりにくくする働きがあるため、過酸化ベンゾイルとともにニキビを出来にくくする維持治療に使用されます。
抗菌薬の内服
抗菌薬の内服は重度の赤・黄ニキビやしこりニキビがある場合に外用薬と併用をして使用をします。白ニキビへは効果はありません。
抗菌薬の種類はテトラサイクリン系のドキシサイクリンやミノサイクリン、他にロキシスロマイシン、ファロペネムなどがあります。抗菌薬だけの治療では白ニキビは出来やすい状態は続いてしまうため、ニキビを出来にくくする治療を同時に行う必要があります。また、長期間の抗菌薬の使用は耐性菌の出現リスクとなり、抗菌薬が効かなくなってしまう可能性があります。
抗菌薬の内服は3カ月までで、6~7週目で効果の評価を行います。抗菌薬の内服治療単独ではなく外用との併用が推奨されています。
主に使用される抗菌薬はテトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)が推奨されており、マクロライド系(ロキシスロマイシン)、ペネム系(ファロペネム)がその次に推奨されています。ミノサイクリンはめまいや吐き気などの前庭機能障害が起こる可能性があるため、ドキシサイクリンから治療を開始することが多いです。
ニキビを出来にくくする治療
ニキビを出来にくくする治療は白ニキビやマイクロコメドを出来にくくして、赤ニキビにならないようにする治療となります。白ニキビの原因は毛包上皮の異常角化と皮脂分泌の分泌亢進ですので、異常角化の状態を整えてターンオーバーを正常化させることや皮脂の分泌を抑える治療となります。
異常角化は古い角質を除去することでターンオーバーを整えることで改善されます。
ニキビを出来にくくする治療
過酸化ベンゾイルの外用:角質の剥離作用とアクネ菌を殺菌する働きのある外用薬
アダパレンの外用:毛包上皮の角化を正常化させる外用薬
保険診療ではこの2種類の外用を各々を使用、もしくは2剤が配合されている製剤を継続的に使用をすることでニキビが出来にくい状態を維持していきます。アダパレンと過酸化ベンゾイルを配合した製剤(エピデュオ)では萎縮性瘢痕の予防効果がるとの報告3)もあり、継続的に使用することで新しいニキビを出来にくくするだけでなく、出来てしまったニキビの跡を残りにくくする効果が期待できます。
正常な皮膚では表皮細胞が角化することで角質細胞となり自然に剥がれ落ちるというサイクルを繰り返していて、「ターンオーバー」といわれています。加齢や肌荒れなどによってターンオーバーが遅くなると角質細胞が剥がれ落ちずに残ってしまい、角質が厚くなっていきターンオーバーはさらに遅くなっていきます。角質肥厚の状態を元に戻すために古い角質を除去しターンオーバーを整えたり、異常な角化を抑える必要があります。
角質剥離にはコルネオデスモソームを破壊し角質細胞同士の接着を剥がし、剥がれ落ちやすくします。①コルネオデスモソームを直接破壊する ②コルネオデスモソームを破壊する作用を持つ角質プロテアーゼやカテプシンDの活性を高める 方法があり、異常角化を抑える働きは保険診療で使用されるアダパレンがあります。
角質プロテアーゼは角質の水分量が減ることによって活性が低下してしまうため保湿剤による保湿をすることによって角質プロテアーゼの活性を高めていきます。カテプシンDは弱酸性になると活性化されます。コルネオデスモソームを直接破壊する作用を有する物質としてはケミカルピーリングで用いられるサリチル酸やグリコール酸、ニキビ治療薬の過酸化ベンゾイルなどがあります。
日本でのニキビ治療は2008年にアダパレン、2014年に過酸化ベンゾイルの外用薬が承認され大きく治療法が変わりました。とても良い治療法ではありますが、これらの治療で効果が得られにくい重度のニキビの場合や、接触皮膚炎などで肌質が悪化し継続できない状態となってしまう場合は、肌質を確認していきながらその肌に合った美容皮膚治療が有効となります。
参照論文
1) V Bataille et al. The Influence of Genetics and Environmental Factors in the Pathogenesis of Acne: A Twin Study of Acne in Women. J Invest Dermatol
. 2002 Dec;119(6):1317-22.
2) Masoumeh Beig et al. Prevalence of antibiotic-resistant Cutibacterium acnes (formerly Propionibacterium acnes) isolates, a systematic review and meta-analysis. J Glob Antimicrob Resist. 2024 Dec:39:82-91.
3) B Dreno et al. Adapalene 0.1%/benzoyl peroxide 2.5% gel reduces the risk of atrophic scar formation in moderate inflammatory acne: a split-face randomized controlled trial. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017 Apr;31(4):737-742.
尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023