広頚筋ボツリヌストキシン注射
頚部以外のマイクロボツリヌストキシン注射についてはこちらをご覧ください。
概要
広頚筋は三角筋を覆う筋膜と大胸筋から顔面の方に伸び、下顎骨前面(咬筋筋膜や笑筋、口角下制筋、口唇下制筋)付近でSMASと一体化する、薄い筋肉となります。顔面神経が支配をする筋肉のため、表情筋の1種ともいわれています。広頚筋は範囲が広く注入する部位や目的により施術の名称が異なります。
広頚筋の役割
- 広頚筋の上側では、口角や口唇を下げることで口の開きに作用し、フェイスラインを下に引き下げる働きがあります。
- 頚部の皮膚の挙上に作用します。
- 首の皮膚を引っ張ることで縦ジワを作る働きがあります。
加齢とともに皮膚のたるみとあわさり広頚筋の拘縮がおこると、首の縦じわやフェイスラインのたるみが目立つようになります。そのため、広頚筋へのボツリヌストキシンを注入することによって筋肉の過度な収縮を抑え、首元をすっきりさせる治療が行われます。特に頚部の皮下脂肪が薄くやせ型の方で目立ちやすくなります。
下唇を下に引き下げる働きを持つため、口角ボツリヌストキシン(口角ボトックス)への注入で効果が不十分な際に部分的に広頚筋へのボツリヌストキシン注入を併用することがあります。
プラティズマバンド(首の縦ジワ)への注入
プラティズマルバンドとは、首に縦に浮き出る筋肉の帯状の部分を指します。広頚筋の収縮により目立ち、加齢による広頚筋の拘縮が生じるとより顕著になります。特にやせ型(皮下脂肪量が少なく筋肉の影響をうけやすい)や脂肪吸引後に目立ちます。プラティズマルバンドが強調されると、首が筋張って老けた印象となることがあります。この、プラティズマバンドへのボツリヌストキシンを注入することにより首の縦すじが目立たなくなりすっきりとした見た目となります。
注入方法は、「いー」っとした前歯を出し、顎を引いた状態(梅干しジワをつくる)にすると広頚筋が緊張した状態になります。この状態で、縦筋部分のマーキングを行います。1㎝程の間隔で縦筋部分に1~2単位のボツリヌストキシンの注入を行います。(1.5~2㎝毎に2単位ずつ注入する場合もあります)。顎下部分へはやや広めにフェイスラインに沿うように注入をすることで縦筋からフェイスラインにかけてをすっきりと見せる効果が期待されます。
自然な状態での首に水平な横ジワはボツリヌストキシンで目立ちにくくする注入方法があります。ボツリヌストキシン以外でのアプローチとして、一般的にはジュベルックやレニスナ、ボライト、プロファイロなどのスキンブースター系の注入注射が適応となります。
ボトックスリフト、ネフェルティティリフト、ボツリヌストキシンリフト
広頚筋は下唇や口角、下顎骨を下に引き下げる働きのため、フェイスラインを引き下げる働きがあります。ボトックスリフト、ネフェルティティリフトともいわれており、下顎骨下縁とプラティズマバンドの上半分を中心にボツリヌストキシンを注入することで下方向へ引き下げる広頚筋の働きを弱め、フェイスラインをはっきりとさせ、自然なリフトアップ効果が期待されます。プラティズマバンドがはっきりとしない場合では下顎骨下縁から首の中央付近までの範囲で均等の間隔で広範囲に皮内へ注入をします。
私の注入方法はプラティズマバンドへは1㎝程の間隔で縦筋部分に1~2単位のボツリヌストキシンの注入を行い、下顎骨下縁へは1㎝程の間隔で1か所1単位程のボツリヌストキシンを広範囲(15~20か所程)に注入を行います。
プラティズマバンドがはっきりとしない場合、フェイスラインをすっきりとさせる目的で下顎骨下縁から首の真ん中あたりまで1㎝程の間隔で1か所0.5~1単位程のボツリヌストキシンを広範囲(20~30か所程)に注入を行います。
注入方法は上記以外に、プラティズマバンドへ2㎝間隔で1カ所2単位ずつ注入する方法などがあります。
フェイスラインへの注入では、顔面の上部への注入量が多くなると笑筋に作用することで笑いにくさが出現する可能性があります。また、口角横付近への注入を行うと口輪筋に作用し口を動かしにくくなる可能性や口角下制筋、口唇下制筋へ作用し左右差やしゃべりにくさが生じる可能性があるため、注入の仕方には注意が必要となります。
首の横ジワや顎下のもたつきへの注入
顎下のもたつきは広頚筋の活動により、顎下の皮膚が引き下げられることが原因となることがあります。顎と頸が作る角度を海外ではcevicomental angleといます。二重顎のようにみえるため、脂肪のみが原因と思われがちですが、唾液腺や広頚筋、皮膚のたるみなどでこの角度が大きくなりもたつきとして認識されるようになることがあります。
横ジワへの注入方法は鎖骨縁と下顎縁の間を5行、3もしくは4列で1カ所2単位の注入を首の中央を避け60~80単位を全体的に注入する方法があります。
副作用、リスク
口元近くへの注入により口輪筋や口角下制筋、口唇下制筋へボツリヌストキシンが拡散をしてしまい、しゃべりにくさや表情の左右差が出現する可能性があります。
特に顎下(口角より内側)へのボツリヌストキシン注射は過量投与やプラティズマバンドより深い部位への注入を行うことによって、首の深部の筋肉へ拡散をしてしまうことで、物の飲み込み難さ(嚥下障害)やしゃべりにくさ(発声障害)が生じたり、顎下腺に拡散することによって口腔の乾燥といった副作用が生じる可能性があります。
フェイスラインがはっきりとしない原因として、顎下腺や皮下脂肪が原因となる場合は効果が乏しいことがあるため、違うアプローチ(唾液腺ボツリヌストキシン注射や脂肪吸引、脂肪溶解注射など)での治療が必要となります。
唾液腺へのボツリヌストキシン注射の説明はこちら。
参照
Hyewon Hu et al. Anatomical Guidelines and Technical Tips for Neck Aesthetics with Botulinum Toxin. Arch Plast Surg
. 2024 Aug 9;51(5):447-458