マイクロボツリヌストキシン
概要
マイクロボツリヌストキシンは、ボツリヌストキシンを通常の表情筋で注入する濃度よりも低濃度となるように希釈をし、皮膚の浅い層(皮内)に細かく注入する治療になります。従来のボトックス治療は筋肉に直接注入して収縮を抑制することでシワを軽減するのが目的ですが、マイクロボツリヌストキシンは皮膚表層に作用することで、皮脂や汗の分泌を調整し毛穴縮小効果や肌質の改善、表情筋の緊張を和らげることで表情の動きを損なわずに自然な形での細かい表情ジワ(小じわ)の改善効果を目的としています。マイクロボツリヌストキシンはボトックスを使用したマイクロボトックスやスキンボトックスなどの名称でいわれることがあります。
皮脂や汗の抑制によりニキビをできにくくする効果、抗炎症効果により酒さが原因の赤みの改善効果も期待されます。
筋肉の動きによる強い表情ジワへはマイクロボツリヌストキシンではなく、表情筋へのボツリヌストキシン注射の方が効果的となるため、使い分けが必要となります。ちりめん状のシワは表情筋の動きだけが原因で出現するものではなく、皮膚のコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などの減少により肌の弾力性が低下している状態のため、スキンブースターといわれる注入治療やフラクションナルレーザーなどの治療を併用するとより効果が期待できます。
前額部
額広範囲への注入により小ジワを抑え、皮脂や汗を抑え毛穴を縮小させることによる肌質を改善させる効果が期待されます。過去に額のボツリヌストキシンで瞼の重たさを自覚した場合や眼瞼下垂がある場合にも適応にとなります(前頭筋の動きは残るためシワは残りますが、出にくくする効果が期待できます、重たさが全く出現しないわけではありません)。多汗症目的での注入では必要となる単位数が多くなります。
注入の方法ですが、前額部10カ所前後に1カ所0.4~1単位程度を膨疹ができるように皮内注射を行います。
眉間部分の毛穴や皮脂分泌を整える目的で鼻根から眉上付近まで同様の注入方法で注入を併用する場合もあります。
額の多汗症では1カ所あたり同じ単位数で20カ所程度細かく注入をおこなっていきますが、合計単位数が20単位程と多くなるため瞼の重たさが出やすくなります。生え際や眉上などの汗をかきやすい部位に絞って注入をおこなうこともあります。
中顔面部
眼瞼周囲の扇状に出現する浅いちりめん状のシワや笑った際の頬のドレープ状の縦ジワを、自然な表情を残しつつ改善させたい場合に適応となります。チーク付近への注入では毛穴だけでなく上唇鼻翼挙筋、上唇挙筋、小頬骨筋、大頬骨筋へわずかに作用することで自然な表情を残しながら笑った際のほうれい線を自然な形で薄くする効果が期待できます。鼻周囲に出現する細かい小じわへの注入を行う場合もあります。
注入の方法ですが、目尻周囲では1カ所0.5~1単位程度を膨疹ができるように3~6か所を目安に皮内注射を行います。
下眼瞼周囲は1カ所0.25単位程度を膨疹ができるように4~5カ所注入を行います。
チーク部分へは1カ所0.5単位程度を膨疹ができるよう片側5~10カ所程度注入をします。
小鼻周囲への注入をすることで笑った際のほうれい線を抑える効果が期待できます。
バニーラインとともに目頭のシワが気になる際は鼻背付近へ0.5~1単位程度の注入を3~4カ所行います。
眼瞼周囲やチーク付近では上唇鼻翼挙筋、上唇挙筋、小頬骨筋、大頬骨筋へ強く作用してしまうと笑いにくさや笑った際の左右差が出現してしまうことがあるため注入の際の深さや注入量の調整はとても重要となります。また、注入後一時的に動かしにくさが出現しても、1週間程で落ち着きバランスが取れることが多いです。
下眼瞼への注入では眼窩内(骨より目側)への注入により目袋の悪化や涙袋の消失する可能性があります。
下顔面部~首
広頚筋ボツリヌストキシンを参照してください。
治療の流れと効果
治療の流れ
- カウンセリング:肌の状態を診断し、最適な注入部位を決定します。シワの状態によっては表情筋ボツリヌストキシン注射の方が適していると診断され、変更をする場合があります。
- 麻酔クリームの塗布:注入個所数が多くなるため、痛みに弱い場合は洗顔後に麻酔クリームを塗布し表面麻酔を行う場合があります。クリニックによっては笑気麻酔を使用する場合もあります。
- 極細針によるボツリヌストキシンの注入:細かく膨疹ができるよう皮膚の浅い層へ注入をしていきます。
- 施術後のクーリング:赤みや腫れを抑えるために注入後は圧迫と冷却を行います。
治療後の効果の出方
- 3〜7日後:皮脂分泌の抑制や毛穴の引き締まり、小じわの出来にくさが徐々に感じられるようになります
- 1〜2週間後:肌のハリや引き締め、小ジワの改善がピークを迎えます
- 2〜4ヶ月持続:効果がピークを迎えた後、徐々に薄れていきます
効果の持続期間は 約3〜4ヶ月 といわれていますが、個人差があります。定期的に施術を受けることで、肌の状態を長期にわたり整える効果が期待されます。
参考
Manal Abokwidir et al. Rosacea Management. Skin Appendage Disord. 2016 May 18;2(1-2):26–34.
Amy E Rose et al. Safety and efficacy of intradermal injection of botulinum toxin for the treatment of oily skin. Dermatol Surg. 2013 Mar;39(3 Pt 1):443-8.
Anil R Shah. Use of intradermal botulinum toxin to reduce sebum production and facial pore size. J Drugs Dermatol. 2008 Sep;7(9):847-50.