抗菌薬の比較

性病で使用される抗菌薬には種類がいくつかあり、大きく分けると

テトラサイクリン系

マクロライド系

キノロン系

ペニシリン系、セフェム系

アミノグリコシド系

などの抗菌薬があります。

抗菌薬の多くが内服となり、金属イオン「鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなど」で吸収が低下するものがあるため、

テトラサイクリン系、キノロン系では「アルミニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム」

マクロライド系では「アルミニウム、マグネシウム」を含む薬剤やミネラルサプリメントを併用する場合は抗菌薬内服後2時間以上あける必要があります。

抗菌薬の使用により、真菌感染症(膣カンジダなど)の発症リスクが高まる可能性があります。

テトラサイクリン系

テトラサイクリン系抗菌薬は細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を発揮する薬となり、「静菌的作用」があります。よく使用される、ミノサイクリン、ドキシサイクリンは経口での内服で消化管で90%以上吸収されるため高い効果が期待されます。

テトラサイクリンは経口避妊薬の有効性を低下させ、経口抗凝固薬の作用を増強させることがあるといわれています。妊娠中・授乳中、8歳未満の方は歯の発育不全や歯牙の着色、歯のエナメル質形成不全などの影響があるため、なるべく避けた方が良いといわれています。

ミノサイクリンとドキシサイクリンを比較した場合、ミノサイクリンはめまい、耳鳴りといった前庭機能障害が出現する可能性があるため、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作および高所での作業等に従事させないように」という添付文章上の注意書きがあるため、内服期間中に自動車運転する場合は不適となります。ドキシサイクリンは前庭機能障害はなく、薬の添付文章上も運転についての記載はなく、ドキシサイクリンの方が選ばれることが多い薬となります。

クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマへの効果があり、使用される抗菌薬ではありますが、性病に対しすべてテトラサイクリン系で十分かといえばそうではありません。淋菌は耐性化が著しく淋菌治療の場合はセフトリアキソンでの治療が必要となり、難治性のマイコプラズマ・ジェニタリウムの場合はシタフロキサシンとの併用療法を行う場合もあります。

梅毒の治療時にペニシリン系アレルギーがある場合の選択肢になります。

マクロライド系

マクロライド系抗菌薬は細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を発揮する薬となり、「静菌的作用」があります。エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、アセチルスピラマイシンなどがありますが、性病治療ではアジスロマイシンが主に使用されます。

アジスロマイシンの特徴としては1回の経口内服で済むため「服薬アドヒアランス」が高く、飲み忘れなどの影響での治癒失敗が起こりにくい点にあります。一方で肛門直腸感染をしたクラミジアでのアジスロマイシンの治癒成功は8割を下回り、ドキシサイクリンの方が9割以上と高いという報告があります。

マイコプラズマ・ジェニタリウムへの抗菌効果も耐性化が問題となっています。東京の無症候性のMSM(男性間性交渉者)でのマイコプラズマ・ジェニタリウムのスクリーニングを行った研究で、マクロライド耐性変異をもつ割合が89.6%、キノロン耐性変異をもつ割合が68.3%と高い確率で耐性を有していることがわかってきています。

梅毒の治療時にペニシリン系アレルギーがあり、妊娠中の場合アセチルスピラマイシンが選択肢になります。

キノロン系

キノロン系抗菌薬は細菌のDNAの複製に関わる酵素を阻害することで「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。プルリフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシンなどがあり、シタフロキサシンが性病治療でよく使用されます。

キノロン系は原則、妊娠中・授乳中、乳幼児、小児(0~14歳)は禁止とされています。

シタフロキサシンはマクロライド系同様に耐性化が問題となっております。

ペニシリン系、セフェム系

ペニシリン系は性病では梅毒の治療に主に使用され、注射製剤のステルレイズ(一般名:ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤)の筋注、アモキシシリンの内服となります。

セフェム系はセフトリアキソンを性病では淋菌の治療に使われます(神経梅毒の治療で使用する場合もあります)。

ペニシリン系・セフェム系ともに、細菌の細胞壁合成を阻害し細菌に「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。ペニシリン系・セフェム系は細胞壁に関連して抗菌作用を発揮するため、細胞壁をもたない「マイコプラズマ、ウレアプラズマ、クラミジア」には効果がありません。

セフトリアキソンは点滴のみの治療薬となるため、郵送検査で淋菌が陽性と出た場合の治療はオンライン診療では完結せず、近くのクリニックを受診し、治療を受ける必要があります。

アミノグリコシド系

アミノグリコシド系はタンパク質合成阻害と細胞膜への障害をあたえ「殺菌的作用」により抗菌作用を発揮する薬となります。外用薬ではゲンタマイシン軟膏(細菌性の亀頭包皮炎で使用)、注射製剤だとスぺクチノマイシン、ゲンタマイシンを淋菌の治療のため、筋肉注射で使用します。

スぺクチノマイシンは咽頭感染時の治療は無効なため、セフェム系にアレルギーがある場合などセフトリアキソンの点滴治療ができない場合に使用されることが多いですが限定的であるため、アジスロマイシン2g内服とゲンタマイシン240mg筋注での治療が検討されます。

自費治療にはなりますが、多剤耐性マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療でスぺクチノマイシンを2g/日の7間筋注とドキシサイクリンの併用が有効である可能性がるといわれています。