梅毒
概要
梅毒トレポネーマという細菌に感染することで発症します。ペニシリンが発見される以前は、多彩な症状が出現し死に至る、不治の病として恐れられていました。現在は検査、治療が進歩し多くは1,2期での早期発見と治療が可能となり、3,4期の梅毒はほとんどみられなくなりました。近年急激に感染者数が増えており、感染報告者数は淋菌感染症を上回り性感染症ではクラミジアに次ぐ2番目に多い性感染症です。
男性では20~40代、女性では20代の感染報告が多いです。原因ははっきりとわかっていないが、SNSやマッチングアプリなどを通じた不特定多数の相手と性交渉の機会が増えたことが原因の1つと考えられています。
潜伏期間
感染から症状が出るまで3~6週間
検査可能時期
感染機会から4週間もしくは6週間(検査法により異なります)
感染部位
全身(粘膜、皮膚、傷のある部位から感染をします)
感染経路
通常は性的な接触により感染をします。梅毒トレポネーマが含まれた体液(精液、唾液、肛門分泌物、血液、しこりや硬性下疳の浸出液など)を介して感染をするため、通常の膣性交だけでなく、オーラル(フェラチオやクンニリングスなどの口腔性交)やアナル(肛門性交)での感染もします。1回の性交渉での感染率は15~30%と高く、感染力は強いです。
性的な接触だけでなく、感染者とのキスでも感染する可能性があります。また、コップや箸の使いまわし(感染者が飲んだ直後にコップで飲んだりする)や感染者の咳やくしゃみの飛沫を直接吸い込むでも感染の可能性はあります。
梅毒トレポネーマは熱や乾燥に弱く、体外ではすぐに死滅するため、粘膜や傷口が直接病変部や体液に触れるようなことが無ければ感染はしません(トイレの便座やプールなど)。
血液を介した感染として、妊娠中女性の胎盤を介した感染(先天梅毒)、過去1948年には輸血による感染報告があったが現在は献血時のスクリーニング検査と新鮮血液を使用しないようにし、感染の報告はありません。
症状
感染時期により分類され、感染から1年未満の早期梅毒(感染から1週~3か月を1期、感染から1か月~1年を2期)、1年以上の後期梅毒(3期)に分類されます。梅毒は感染者の粘膜や皮膚病変部に菌が大量に存在します。性行為など粘膜同士の接触や微細な傷などに接触することで感染を起こします。
感染をすると血行性に全身に広がり、全身性の慢性的に進行する感染症です。時間経過とともに症状が進行し最終的には大動脈瘤や脊髄癆といった心血管系、中枢神経系に影響し日常生活が困難となり死に至る可能性のある感染症です。
1期(1週~3か月)
初期硬結:感染周辺部の皮膚などにできるしこり赤く腫れたような見た目で、基本的に痛みやかゆみはありません。男性は冠状溝や亀頭陰茎性器周辺の皮膚、女性は膣内、大陰唇・小陰唇周辺の皮膚、 口腔・咽頭の粘膜にできます。
3mmから3cmのしこりで2~3週間程で症状は消えていきます。この初期硬結が破裂すると硬性下疳という潰瘍となりますが、痛みはないため、気づかずに放置してしまうことが多いです。病変部には病原菌が大量に存在するため、パートナーへと感染をさせてしまう可能性が高いです。硬性下疳は1~3か月で治癒する。鼠径部のリンパ節が無痛性に固く腫れる無痛性横痃も出現することがあり、3週間程で自然に治ります。
2期(1か月~1年):再発と寛解を繰り返し3期へ移行をしていきます。
菌が全身に広がり皮膚や粘膜に発疹やだるさ発熱といった風邪症状などが出現します。
梅毒性バラ疹:体幹を中心に顔や四肢、足底、手掌に出現
丘疹性梅毒:エンドウ豆程の赤褐色の丘疹や体幹、顔面、四肢、足底、手掌に出現
扁平コンジローマ:肛門や外陰部に薄い紅色から灰白色の分泌物を伴ういぼ
膿疱性梅毒:膿がたまった水疱が多数できる
梅毒性白斑:皮膚の色素細胞が障害され、部分的に白くなる
梅毒性アンギーナ:扁桃や軟口蓋周辺にただれや潰瘍ができ、赤く腫れる
梅毒性脱毛:虫食い状の脱毛
3期(1年~):
ゴム種、心血管梅毒、後期神経梅毒(進行麻痺、脊髄癆)
皮膚・骨・筋肉・肝臓や腎臓などに固いしこりやゴムのような腫れ(ゴム種)、鼻骨周辺に形成するものを鞍鼻といいます。脊髄癆や動脈瘤などの心血管系、中枢神経系の病変症状を呈していきます。
検査および治療
梅毒は梅毒の検査は抗原となる病原体の「トレポネーマ・パリダム」を検出する方法のPCR法はあるものの、検体採取に習熟していないと検出感度が良くないため、検査が陰性でも梅毒を否定できないといわれているため、検査に使用されることはありません。実際の検査は血液検査による「TP抗体」「RPR抗体」の検査になります。
梅毒の検査はRPR法に代表される脂質抗体検査(STS)とトレポネーマ(TP)に対する抗体を測定するTPHA法などのTP抗体検査法があります。感染初期の数週間は抗体が形成されず陽性となりませんが、3~4週間あたりから抗カルジオリピン抗体が陽性(RPR法)となり、その後1~2か月あたりから抗TP抗体が陽性となります。抗カルジオリピン抗体は治癒により下降するため治療効果の判定に使用されますが、抗TP抗体は治癒後も継続的に陽性が続いてしまいます。
TP法のみの場合を即日検査という場合もありますが、感染時期によってはTP法は陰性でも、RPR法が陽性の結果で偽陽性のこともありますが、感染初期の場合も起こりえます。TP法だけでの判断は既感染時や感染早期を抽出することでできないため、TP法+RPR法の検査の方が適しています。
TP法は感染機会から8週間後、TP法+RPR検査は感染機会から1か月後(TP法は検査時期が短いため陰性の可能性がありますが、RPR法のウィンドウ期は過ぎているため、RPR法で感染の有無について評価が可能となります)から検査可能となります。
正確な診断のためには3か月後に再度フォローアップ検査を行うことが推奨されています。
TP法は1度でも梅毒に感染すると生涯にわたって陽性と出てしまうため、既往歴のある場合はRPR法が必要となります。また、抗カルジオリピン抗体は自己免疫疾患などでも陽性と出てしまう「生物学的偽陽性」となることがあります。
治療はペニシリン系抗生剤の内服、筋注。アレルギーのある場合はミノサイクリンを使用します。マクロライド系抗菌薬が有効な時期もありましたが耐性化がすすみ使用されなくなりました。
治療開始後24時間以内に全身の倦怠感、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、頻脈、呼吸切迫、血圧低下、一過性の病変部の悪化といった「ヤーリッシュヘルクスハイマー反応」が出現することが10~35%であるといわれており、女性に多いです。抗生剤により病原となる細菌が大量に破壊され、細菌の毒素が血液中に放出されることが原因と考えられています。抗生剤開始後1-4時間で症状が出現し、24時間以内に軽快し、アナフィラキシーなどとの鑑別は症状だけではできず、投与後数分以内であればアナフィラキシーと考え、投与を中止し違う抗生剤を使用していきます。