炭酸ガスレーザーによるアブレーション
炭酸ガスレーザーは、10,600 nmの波長を持つレーザーで、水分に強く吸収される特性があります。皮膚に照射すると、水分の蒸散作用によって瞬間的に組織を蒸発させることができるため、皮膚表面を削る(アブレーション)目的で使用されます。この特性を利用し、瘢痕組織を除去することで、肌の再生を促進する治療法です。
TCAクロスと比較されることが多い治療法となります。TCAクロスについての詳細はこちらをご参照ください。
炭酸ガスレーザーの4 STEP
炭酸ガスレーザーによるアブレーションは瘢痕組織をレーザーの蒸散による組織の正確な除去とコラーゲン生成と真皮リモデリングによって効果を発揮します。
STEP 1 炭酸ガスレーザーによるアブレーションが適応となるニキビ跡とアブレーションの手技
アイスピック型:深く鋭い陥凹を伴う瘢痕
ボックスカー型:角ばった陥凹のある瘢痕
ボックスカー型が適応となりますが、当院では炭酸ガスレーザーによるアブレーション時の瘢痕組織の除去範囲によってはなだらかにできても皮膚の瘢痕化した範囲を拡大してしまう可能性があるため、アブレーション前にTCAクロスでの組織の底上げを優先し必要時にご案内をさせていただいております。
ローリング型瘢痕に対する効果は乏しく、サブシジョンやボリュームロス時はジュベルックやジュベルックボリュームが適応です。
※瘢痕が混在しているような鼻の強い毛穴の開きも適応がありますが、酒さ鼻の場合では逆に悪化させてしまうことがあり注意が必要です。
アブレーションの方法
当院ではクレーター部分のエッジおよび底面を炭酸ガスレーザーを照射し均一な深さで蒸散を行うために、高密度のフラクショナルモードを使用することでほぼ均一の深さで瘢痕化リスクを抑えながら除去を行います。
STEP 2 瘢痕組織の蒸散・除去
炭酸ガスレーザーは水分に吸収されやすい特性を持つため、照射すると皮膚内の水分が急激に蒸発すると同時に瘢痕組織を削ることができます。TCAクロスによるたんぱく変性と異なり、直接削る深さを確認しながら治療が可能なため正確に瘢痕組織の除去が可能となります。過度に瘢痕組織を除去してしまうと施術をした部分が広範囲に瘢痕化してしまい瘢痕化により肌質の変化などが生じてしまうため、アブレーションの深さは最小限にとどめます。
STEP 3 湿潤療法
レーザーで削り取られた直後の肌は、一時的にバリア機能が失われた非常にデリケートな状態(創傷)です。ここでのアフターケアが、最終的な仕上がりを大きく左右します。STEP 3では、従来の「かさぶたを作って治す」乾燥状態ではなく、「湿潤療法(モイストヒーリング)」を行います。ハイドロコロイドなどの特殊な保護テープや軟膏を用いて患部を密閉し、適度な潤いを保ちます。レーザー照射後の患部からは、細胞の修復や増殖を促す成分(成長因子)をたっぷり含んだ浸出液が分泌されます。湿潤療法により、この自己治癒力を促す浸出液を患部に留めることでかさぶたを作らずに早くきれいに皮膚を再生させることが可能になります。
※瘡蓋となるTCAクロスと異なり、アフターケアはTCAクロス以上にとても重要となります。
STEP 4:上皮化と真皮のリモデリング
湿潤療法を続けながら数日〜1週間ほど経過すると、患部の表面に新しい皮膚の細胞が覆いかぶさり、「上皮化(表面が塞がる状態)」が完了します。しかし、肌内部の治療はこれで終わりではありません。
真皮層で長期間にわたって起こる「リモデリング(再構築)」がとても重要となります。STEP 1・2でのレーザーの熱刺激を受けた真皮層では、肌の弾力源であるコラーゲンやエラスチンを作り出す「線維芽細胞」が活発に働き始め、創傷治癒過程(炎症期・増殖期・成熟期)を経て、最終的に新しい皮膚組織の再構築を促していきます。
炎症期(施術直後〜数日)
組織の損傷に対してマクロファージなどが集まり、サイトカインや成長因子(TGF-βなど)を放出します。コラーゲン生成はまだ行われていません。前段階の準備期間であり、患部の赤みや腫れ、TCAによる瘡蓋形成が起こる時期となります。
増殖期(数日〜約4週間)
放出された成長因子のシグナルにより、線維芽細胞が患部に遊走・増殖します。線維芽細胞が主に「III型コラーゲン」を活発に産生し始めます(肉芽組織の形成)。このIII型コラーゲンは初期の骨組みとして急速に作られるため、施術後2週間〜4週間頃がコラーゲン産生量そのもののピークとなります。血管内皮細胞の遊走により血管新生が促進され、毛細血管がつくられ、ケラチノサイトが遊走し、表皮の再上皮化が進みます。
成熟期 「リモデリング期」(約3〜4週間後〜数ヶ月~1年)
急増造されたIII型コラーゲンが、より強固で太い「I型コラーゲン」へと徐々に置き換わり、架橋されることで再構築が進みます。脆弱だった毛細血管が血管網を形成します。
TCAクロスの方が赤みが残りやすい理由はなぜか?
炭酸ガスレーザーによるアブレーションと比較して、TCAクロスの後に生じる赤みである炎症後紅斑(PIE)が強く、かつ長期にわたって遷延しやすい理由には、組織破壊のアプローチ(物理的蒸散か、化学的壊死か)と、それに伴う創傷治癒プロセスの違いが大きく関係していると考えられます。
壊死組織が残存するTCAクロス
施術によりダメージを受けた組織の「処理」の違いがあります。
炭酸ガスレーザー:壊死組織は除去される
ターゲットとなる瘢痕組織内の水分がレーザーエネルギーを吸収し、組織そのものが一瞬で「気化・蒸散」して物理的に消失します。周囲には薄い熱凝固層が形成されますが、不要な組織はすでに除去されているため、創傷治癒のプロセス(肉芽形成〜上皮化)にスムーズに移行します。
TCAクロス:壊死組織は残る
高濃度のTCAは、表皮から真皮深層のタンパク質を強力に「凝固壊死」させます。炭酸ガスレーザーとの大きな違いは壊死した組織がそのまま局所に残存する点です。身体はこの変性したタンパク質を「異物」とみなし、マクロファージ等の免疫細胞が時間をかけて貪食・排除(デブリドマン)する必要があります。このプロセスが完了するまで強力な炎症カスケードが持続するため、結果として赤みが長引きます。
血管新生の誘導強度の違い
赤みの直接的な原因は、組織修復のために拡張・増生した毛細血管です。
炭酸ガスレーザー
血管新生は起こりますが、熱影響の範囲をパルス幅や出力で緻密にコントロールでき、TCAほどの過剰な炎症性血管新生を引き起こさずにリモデリングを進めることが可能です。
TCAクロス
真皮網状層に至る深い化学的熱傷を引き起こすため、強力な炎症反応を起こします。VEGF(血管内皮増殖因子)などのサイトカインが大量に放出され、創傷治癒を目的とした非常に活発な「血管新生」が誘導されます。高濃度TCAによるこの反応は劇的であり、豊富な血流が長期間患部に留まるため、強い赤み(紅斑)として視認されます。
深達度と熱影響範囲のコントロール性
炭酸ガスレーザー
照射ごとの深達度やスポットサイズが機械的に制御されています。意図した深度以上の無駄なダメージを与えにくく、周囲の正常組織への熱拡散も最小限に抑えることができるため、炎症が早期に終息しやすい傾向があります。
TCAクロス
深達度は「塗布するTCAの濃度・量・圧・塗布時間」という術者の手技に完全に依存します。また、毛細管現象によって凹みの底部から周囲の組織へと薬液がわずかに浸透・拡散しやすく、意図したポイントよりも広範囲・深層に炎症が波及するケースがあります。深部まで及んだ強い炎症は、当然ながら消退するまでに長い時間を要します。
治療の頻度と期間
6~12週間以上の間隔で治療を行います。肌への侵襲が強い治療となるため、創傷治癒過程がある程度落ち着くまで空ける場合が多いです。削る深さにより創傷治癒過程に要する期間には違いが出ます。
1度の治療でも十分な効果を発揮しますが、複数回行った後の方がより効果が実感できるようになります。
施術の流れ
① 施術前の準備
メイクや日焼け止め、皮脂を洗顔で洗い落とします。
② 炭酸ガスレーザーによるアブレーション
アイスピック型もしくはボックスカー型のニキビ跡の瘢痕組織のエッジを炭酸ガスレーザーを照射し蒸散させて削ります。蒸散させた部位からは滲出液が出てじゅくじゅくとした状態となります。軟膏やハイドロコロイドでの湿潤療法を行います。施術後からヒリヒリとした痛みは出現し、翌日ぐらいまで続きます。
③ 施術後の経過
施術部位は直後から滲出液が出てじゅくじゅくとした状態になります。傷が乾燥してしまうとかさぶたができてしまい、細胞の増殖や活性化、遊走が阻害されてしまうと施術部位の治りが悪くなるだけでなく、コラーゲン生成が十分にされずにクレーターが悪化してしまう可能性があります。軟膏による湿潤療法を再上皮化がおわる7~10日間程行う必要があります。かさぶたが出来てしまった場合は無理に剥がそうとはせず、かさぶたの上から軟膏を塗りケアを続けます。
※当院ではトレチノイン外用を併用した治療法をご提案することが多いです。その際は湿潤療法の期間は変わり、トレチノインの外用を開始していきます。診察時にご案内をさせていただきます。
創傷治癒過程により施術部位は赤みを帯びた状態となります。傷が深い程創傷治癒過程は時間を要し、赤みが長引きます。数週間から半年以上赤身が続く場合があります。また、炭酸ガスレーザーによる削り取る深さが深く、底面に表皮付属器官(毛穴など)がない状態となると「成熟瘢痕」化し、いわゆる白い傷跡になる可能性があります。
3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は数か月程続くといわれています。
施術後に肌の質感が変わってしまうことはあるの?
炭酸ガスレーザーを毛穴周囲やニキビ跡に照射をした後に毛穴の開きが悪化してしまった、肌の質感がつるっとした感じになってしまったという報告を聞いたことがあるかもしれません。
炭酸ガスレーザーによる蒸散を過剰に行ってしまうと毛穴周囲の支持組織まで除去してしまい、リモデリングがうまくいかずに毛穴が目立ってしまうことがあります。また、毛包周囲には幹細胞が存在しているため、皮膚が傷をついても毛包内から幹細胞が遊走することで上皮化を含めた創傷治癒が可能となりますが、過剰な除去により毛包周囲を含めた幹細胞ごと除去してしまうと細胞が遊走できなくなり、瘢痕組織ができ、結果として肌の質感の変化(火傷の跡のような)となってしまうことがあります。
炭酸ガスレーザーによるアブレーションは施術者の技量による差が大きくでる治療の1つです。
期待される結果とリスク
効果と限界
ピンポイントの深い瘢痕(アイスピック型、ボックスカー型)に対して効果的が期待されます。
TCAクロスと比較し、瘢痕組織の除去を正確に行うことが可能ですが、TCAクロスと比較し費用が高額になることが多いです。
炭酸ガスレーザーでどの程度削るかの調整には習熟した医師による診察と治療が必要となります。
クレーターの底面が白色の瘢痕の場合や、アブレーションで過度に広範囲の組織を削りとってしまった場合などでは陥凹が持ち上がっても「成熟瘢痕」化することで、白い傷跡として残る可能性があります。
1度の治療でも十分な効果を発揮することがありますが、複数回治療が必要となる場合があります
施術後の注意点と副作用、リスク
長いダウンタイム
施術部位を7~10日間、再上皮化するまでは適切な湿潤療法を行う必要があります。ケアを怠ると期待される効果が得られなくなるだけでなく、クレーターの悪化や色素沈着などのリスクも高まります。再上皮化後は日焼けや摩擦は極力避けるようケアしていく必要があります。
再上皮化直後は蒸散により組織が削り取られた状態のため、陥凹が悪化し赤みを帯びた状態となります。3~4週間で瘢痕部分が徐々に持ち上がり、改善していきます。コラーゲンの生成は治療後数か月程続くといわれています。赤みは数週間程で徐々に改善していきますが、削る深さが深い場合などの理由で長いと半年以上つづくことがあります。
副作用、リスク
- 強い炎症による炎症後色素沈着
- 色素脱出(メラノサイトが機能しなくなることによる白斑と成熟瘢痕による白色の瘢痕組織があります。元々成熟瘢痕のため、白く抜けていた状態のものが気になってくる場合もあります)
- クレーターの悪化(より深くなってしまう)、拡大(クレーターが大きくなってしまう)
- 過剰な瘢痕形成(肥厚性瘢痕やケロイド)
- 赤みの長期化や残存(治療部位の毛細血管網が目立ってしまう)
- 感染(表在性細菌、真菌など) など
まとめ
炭酸ガスレーザーを用いたアブレーション治療は、ニキビ跡の特にアイスピック型やボックスカー型のクレーター改善に効果的な方法の一つです。皮膚を削ることで瘢痕組織を削り、線維芽細胞を刺激し、新しいコラーゲンの生成を促すことで、萎縮性瘢痕の陥凹部分を持ち上げ、肌の質感を改善します。
1回の施術で十分な治療効果を発揮することもありますが、複数回の治療が必要となることが多いです。また、施術後の適切なアフターケアが重要であり、施術後の湿潤療法と日焼け対策や保湿を徹底する必要があります。他の施術と比べると、ダウンタイムが長く、リスクが高い治療となります。
施術に習熟した医師による治療が効果を最大化し、リスクを可能な限り抑えるのに重要な要素の1つとなります。
TCAクロスと炭酸ガスレーザーによるアブレーションの比較
TCAクロスと炭酸ガスレーザーによる治療の比較は施術者に技量による要素も大きいため、単純に比較をすることはできませんが一般的には炭酸ガスレーザーのアブレーションの方が優れているといわれています。
炭酸ガスレーザーによるアブレーションは正確に瘢痕組織を削ることが可能な施術となります。一方、TCAクロスはTCAが皮膚表面から深達することでタンパク質を凝固変性させるため、瘢痕組織を全て凝固しきれない可能性や真皮下の深達度がはっきりと分からない点からどの程度の効果や副作用のリスクを伴うかが分かりにくく、炭酸ガスレーザーによる施術が取って代わっています。
TCAクロスは古くから行われてきた深層ピーリングの1種となり多くの臨床経験があります。上記の理由から炭酸ガスレーザーを行うクリニックが増えていますが、TCAクロスの治療が根強い理由としては費用面で炭酸ガスレーザーと比べ安価にできる点が挙げられます。
炭酸ガスレーザーによるアブレーション、TCAクロスともに治療に習熟した医師による治療が重要になります。
| TCAクロス | アブレーション | |
| 対象となる瘢痕 | 主にアイスピック型 小さめのボックスカー型も適応 |
主にボックスカー型 アイスピック型も可能 |
| 機序 | TCAによるタンパク質の凝固変性による剥離と線維芽細胞活性化 | 瘢痕組織の蒸散と熱作用による線維芽細胞活性化 |
| 瘢痕組織の除去 | 不十分なことが多い | 緻密に行うことができる |
| 施術後の経過 | 痂疲(かさぶた)が5~7日続き、再上皮化し自然にはがれる | 再上皮化までの7~10日湿潤療法 |
| 治療回数 | 3~6回程度 | 1~3回で効果が実感しやすい |
| 費用 | 比較的安価 | 高額 |
| その他 | 大きなボックスカー型やローリング型には不向き | ローリング型には不向き |
| 注意点 | 濃度や反応時間、塗布量など施術者による違いが出やすい かさぶた後はメイク可能 |
過度に削りすぎると瘢痕化する可能性がある 湿潤療法のケアはとても大事 |
実経験でのはなし
本文章を作成しました、両治療に携わっていました石井の個人的な意見にはなりますが、経験上陥凹を持ち上げる効果はTCAクロスの方が高いという印象を持っていました。同時に赤みが残る期間についてもTCAクロスの方が長い印象でした。濃度選択など様々な要因があったかと思います。
両治療とも強力な改善効果が期待できますが、作用機序の違いだけでなく施術後のケアの仕方にも大きな違いがあるため、受ける方との相性も大きくある印象です。特にTCAクロスではかさぶたとなった後メイクが可能となるため、比較的好まれる印象がありました。
私の個人的な治療のおすすめの組み立て方になりますが、線維芽細胞の活性化を目的として深層ピーリングまでいくかいかない程度のTCAクロスを3~4回程行いクレーターの陥凹を改善させ、線維芽細胞の活性化を促した後に、エッジが残っている場合は炭酸ガスレーザーによるアブレーションでエッジを削り取り瘢痕組織をしっかりと除去。その後、ピコフラクショナルで仕上げていくという治療の組み合わせが費用面や効果を考えた上で効率良く治療が進められるかと思っています。
当然ですが、両施術を検討される際習熟している医師による治療が重要となります。
参照
- Georgios Kravvas et al. A systematic review of treatments for acne scarring. Part 1: Non-energy-based techniques. Scars Burn Heal. 2017 Mar 30:3:2059513117695312.
- Georgios Kravvas et al. A systematic review of treatments for acne scarring. Part 2: Energy-based techniques. Scars Burn Heal. 2018 Aug 16:4:2059513118793420
- Teo Soleymani et al. A Practical Approach to Chemical Peels: A Review of Fundamentals and Step-by-step Algorithmic Protocol for Treatment. J Clin Aesthet Dermatol. 2018;11(8):21–28
