淋病

概要

ナイセリア・ゴノリアという細菌が感染をすることにより発症する性感染症です。1度の性行為での感染率は30%といわれ、感染率が高いです。感染から症状が出るまで2~7日とクラミジアと比べ短く、男女で症状が全く異なります。女性では無症状もしくは軽度のことが多いですが、男性で強い症状を起こします。

淋菌感染者の20~30%はクラミジアとの混合感染をしているといわれ、淋病症状が先行して出現し、その後クラミジアの症状が出現する場合があり、検査結果次第ではクラミジアの治療も同時に必要となります。性感染症に罹患し、性器の粘膜が炎症を起こした状態となるとHIVなど他の性感染症に非常に感染しやすい状態となるため、早期の発見、治療が重要となります。

薬剤耐性が問題となっている菌の1つで、以前はペニシリン系抗菌薬が有効といわれていました、現在では耐性を獲得し、テトラサイクリン系およびキノロン系の抗菌薬の耐性株も70~80%を超えているといわれています。有効とされている治療はセフェム系のセフトリアキソンの点滴治療、アミノグリコシド系のスぺクチノマイシンの筋注、アジスロマイシン2gとゲンタマイシン240㎎筋注になります。国内外でセフトリアキソンの耐性株も観察されることもあり将来的にはさらなる難治化も考えられています。

潜伏期間

感染から症状が出るまで2~7日。

検査可能時期

感染機会の翌日から

感染部位

尿道、肛門、咽頭、膣、結膜、血液

上行感染により男性では精巣上体炎、女性では子宮頚管炎、骨盤内付属器炎(卵管炎、卵巣炎)、腹膜炎などを起こします。

感染経路

通常、性的な接触により感染をします。クラミジアが含まれた体液(精液、膣分泌液、唾液、肛門分泌物など)を介して感染をするため、通常の膣性交だけでなく、オーラル(フェラチオやクンニリングスなどの口腔性交)やアナル(肛門性交)での感染も起こします。

性的な接触だけでなく、咽頭感染者とのディープキスでも感染するため心当たりなく感染していることもあります。

胎児への産道感染も問題となっています。

症状

女性:排尿時の軽い痛みや違和感、頻尿などの膀胱炎症状、外陰部の軽いかゆみ、おりものの量の増加や色調が緑黄色に変化、不正出血など

淋菌は最初に子宮の入り口にあたる子宮頸部の細胞に感染を起こします。尿道炎、膣や子宮頚管炎のため上記の症状が生じます。治癒をせずに進行してしまう、もしくは治癒を行うも体内から完全に排除されずに残存して進行してしまう(治癒失敗)と、子宮内膜炎による不正出血や骨盤内付属器炎(卵巣炎や卵管炎)、骨盤腹膜炎などを起こし、発熱や下腹部痛の原因となることがあります。卵管炎が進行し両側の卵管が癒着のため閉塞すると不妊症の原因となることもあります。また、卵管の炎症は卵子を運ぶ機能が低下し、卵管妊娠(子宮外妊娠)を起こす可能性もあります。

男性:排尿時の激しい痛み、多量の黄白色の膿、陰茎の腫れなど

治癒をせずに進行してしまうもしくは治癒を行うも体内から完全に排除されずに残存し進行してしまう(治癒失敗)と、尿道内の淋菌が上行し、精巣上体炎を起こし、強い炎症のため陰嚢の強い腫れと痛み、発熱をおことがあります。強い炎症のため、無精子症となり男性不妊の原因なる場合があります。

咽頭:オーラルでの行為により感染をし、性器淋菌感染症患者の10~30%で咽頭からも淋菌が検出されるといわれています。淋菌が咽頭に感染していても炎症症状の自覚がないもしくは乏しいことが多く、症状があってもいわゆる風邪と似ているため気づかれないことが多いです。症状のない咽頭感染がパートナーへの感染や罹患したパートナーからの感染の原因となることがあります。スぺクチノマイシンは咽頭への移行性が悪く治癒できないため、セフトリアキソンでの治療となります。

結膜:分泌物が付着した手などを介して感染することがあります。成人では稀ですが重症の化膿性結膜炎を起こすことがあり、重篤な眼瞼浮腫に続く結膜浮腫と、大量の膿性滲出物がみられ、感染後12~ 48時間で発症します。角膜の潰瘍や膿瘍、穿孔などのほか、全眼球炎や失明することもあるため、入院での治療が必要となることがあります。結膜感染は新生児の産道感染で特に問題となり、以前は小児失明の原因となっていました。

肛門:多くの場合無症状です。時に肛門の掻痒感・不快感、肛門性交痛・下痢などをおこすことがあります。直腸検体は保険適応はなく自費の検査となります。

播種性淋菌感染症:血液内に菌が侵入することで関節炎や心内膜炎、髄膜炎などをおこすことがある。急激に発症をし、発熱を伴い、複数の関節痛や関節の運動制限などを伴います。

検査および治療

検査は即日検査と通常検査(一般検査といわれることもある、核酸増幅法での検査)があります。使用する検体は「咽頭うがい液、膣ぬぐい液(膣分泌液)、肛門ぬぐい液(肛門分泌液)」となります。

即日検査は全て自費の検査となります。イムノクロマト法などを使用したキット検査となり、数十分程で検査結果が出るため、受診当日にすぐ検査、治療を行うことができます(混合診療はできないため、自費での検査の結果治療を行う場合は自費での治療となります)。症状が無い場合やスクリーニングでの検査では感染をしていても陽性と出てこない「偽陰性」の可能性が高いため、スクリーニング検査や治癒確認には適していません。

通常検査は自費もしくは保険(症状がある場合のみ)での検査となります。核酸増幅法での検査は特殊な検査機器を使用するため外部施設へ検査を依頼し、検査結果が出るまで数日要する点が欠点ではありますが、検査の精度が高く推奨されています。

肛門ぬぐい液での検査は保険適応外の検査、咽頭は保険での検査が難しい(同じ月に複数部位の検査をすることができない)です。混合感染の可能性を考慮したスクリーニング検査や症状のない部位の検査を行う場合は自費での検査となります。

自然治癒はしないため、症状に関わらず感染が疑われる場合は早期の検査と治療を行い、進行を防ぐ必要があります。治療は抗菌薬となりますが、治療後に症状が無くなっても病原菌が体内に残っていることがあるため、抗菌薬服用後「2週間後以降」に治癒確認検査が必要となります。混合感染の可能性を考えてクラミジアの同時検出検査を行った際にクラミジアが検出された場合はクラミジアの治療も行う必要があります。

淋菌は薬剤の耐性化が問題となっています。これまで使用されていたペニシリン系の内服やアジスロマイシンの内服は耐性化のためほぼ効かなくなっているため、内服薬ではなく点滴もしくは注射の治療となります。

治療方法はセフトリアキソンの単回の点滴治療、スぺクチノマイシンの単回の筋注での治療、アジスロマイシン2g内服とゲンタマイシン240mg筋注の単回治療となります。咽頭炎も治療可能なセフトリアキソンでの治療が第一選択となることが多いですが、セフェム系のアレルギーがある場合などで使用できない場合は他の治療法が選択されます。

淋菌が陽性とでて治療後も症状が残る場合、マイコプラズマ、ウレアプラズマの混合感染の可能性を念頭に検査をすすめる必要があります。クラミジア・淋菌の同時検査とマイコプラズマ・ジェニタリウムの同時検査は保険ではできません。ウレアプラズマの検査・治療は保険ではできないため自費での検査治療となります。(初診時に自費検査で多くの病原体を検査する場合もあります。)

現在、セフトリアキソン耐性FC428が世界中で確認されるようになっており、将来的に抗生剤が効かなくなる可能性があるといわれています。性病感染時は他の性病にも同時に混合感染していることがあります。淋菌やクラミジアの検査のみの場合では、マイコプラズマ、ウレアプラズマを見逃してしまうことがあります。淋病を発症し治癒後に感染機会がなかったとしても、マイコプラズマの症状が出現するといった発症のタイミングが違う性感染症がでて再度治療が必要となることもあります。